レイシャルメモリー 4-02


「ライザナルは薬の種類も豊富で研究者も多くいます。こちらに来て少ないことに驚きました」
 イージスの説明に、グレイはため息をついた。
「そういや最初から毒薬使われてたんだっけ。へきえきしたろうな、フォース」
「ええ、たぶん。解毒剤すら嫌がっておいででしたし」
 イージスが、たぶん、と言うのは、フォースは薬をひどく嫌っていることすら話さなかったということなのだろう。フォースはライザナルで、そのくらい気を張りつめたままでいたのだ。
「そりゃあ、フォースにとっての薬は、ガキの頃からどういう作用をもたらすか分からない、得体の知れない物体だったからな」
 その言葉に、イージスが表情を曇らせたことにグレイは気付いた。視線が合うと、イージスは目を伏せて口を開く。
「戻っていただけるでしょうか」
「どうして?」
「やはり、色々と隠していらしたようですし」
 イージスの深刻そうな顔に、グレイは苦笑した。
「隠すってより、きっと話さなかったってだけだよ」
「ですが。こちらにいる時のお姿が、自然な立ち居振る舞いだと思うと」
「ライザナルではガチガチだったって?」
 グレイが言葉を継ぐと、イージスは、はい、とうなずく。
「あのような生活に戻ろうとは、思っていただけないのではないでしょうか」
「慣れない場所だと、誰だってそうだよ」
「それは、そうですが……」
 イージスはグレイの明るい声にも、その表情を変えなかった。グレイは向かい側のイージスをのぞき込むように見上げる。
「やっぱりフォースが戻らないかもしれないって思ってるんだ?」
「ええ。それもあります」
 その答えに、グレイは眉を寄せた。一度は否定したのだ、どちらを信じていいのか分からなくなる。その疑わしげな視線に気付いたのか、イージスはスミマセンと頭を下げた。
「昨日は失礼いたしました。レイクス様の前で信じられないとは言えなかったのです」
「言っちゃってもよくなった? 俺に言えばフォースに筒抜けかもしれないのに」
 グレイの言葉に、イージスは何か考えるように目を伏せる。
「お伝えするしないは、グレイさんが決めてくださってかまいません。実際、もしレイクス様があきらめてしまわれたらライザナルは……」
 イージスの切実な雰囲気に、グレイは苦笑した。
「場合によっては言って欲しいってわけか」
 その言葉にイージスは、はい、とかすかな声を返してくる。グレイは可笑しさにノドの奥から笑い声を漏らした。

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