レイシャルメモリー 4-03


「俺って、そんなにいい人じゃないよ?」
 そういわれると返す言葉もないのだろう、口をつぐんでしまったイージスに、グレイは肩をすくめて見せる。
「フォースは最初から、神とか国とか考えているわけじゃない。シャイア神からリディアを取り返そうとしているだけだよ。戦があろうがなかろうが、降臨を解いてしまうのは簡単だけど、そうすることでリディアが持ってしまう罪悪感とか、間違いなく出てきてしまうだろうリディアに対する敵意とか、そういうモノを全部払拭しようとしてる」
 グレイが笑顔を向けると、ただ黙って聞いていたイージスが、疑わしげな瞳を向けてきた。
「一度レイクス様ご本人にうかがったことがあります。でも、本当に……」
「リディアを取り返すだけなら、もっと簡単な方法がいくらでもあるだろ? そうじゃなきゃライザナルへ行くのを止めてる」
 その言葉で、イージスはハッとしたように目を見開いた。グレイは不機嫌に小さく息を吐くと言葉を継ぐ。
「だから、フォースがライザナルに行かないなんて考えられない。リディアが、ちょっといい方向に変わったのもあるし。イージスさんは心配する必要もない」
 じっと目を見つめたまま聞いていたイージスが視線を落とし、はい、と返事をした。表情は緊張したままなので、すべて同意できたわけではないのかもしれない。それでも聞き入れようとする姿勢には好感が持てるとグレイは思った。トゲがあったかもしれない声に、いくらかの安堵が混ざる。
「そのニーニアって子のことも、あまりあおらない方がいい。黙っていた方がよほど気になる」
「ええ、そうかもしれません。そうさせていただきます」
 そう言うとイージスは軽く頭を下げた。この人当たりのよさは女性ならではだろうか。それとも、イージスの性格なのかもしれない。とりあえずでも、納得してもらえてよかったとグレイは思った。
「いや、分かってくれてよかったよ。でさ。それでもこっちにいるつもり?」
 グレイの問いにイージスは、はい、とハッキリ返事をした。やはりそう簡単には追い出せないかと、グレイは苦笑しながらイージスが口を開くのに目をやる。
「再びライザナルに入られた時に、お守りできるのではと考えています。剣を持てる人間が一人でも多い方が」
 待って、とグレイは両手の平をイージスに向けた。
「それは違うんじゃ? 男が一人で女性を二人連れて歩くよりも、子供連れの若い夫婦の方が目立たないし、襲う方にしたら儲けも少ないと思うだろ」
「子供連れ、ですか?」

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