レイシャルメモリー 4-04


 疑わしげな顔のイージスに、グレイは舌を出してみせた。
「あれ? まだ見てなかったっけ? ティオ」
 その名前を聞いたのか、ソファの下から緑色の髪が出てきた。寝ぼけた目までをのぞかせた状態で、グレイを見つめてくる。
「なに?」
「なにって、そんなところにいたのか」
 グレイは苦笑しながら、イージスにティオを指し示した。
「そいつが子供の役目をして、あれ?」
 グレイは言葉を止め、もう一度ティオに目を向ける。ティオはズルズルと上半身を表に出した。
「なに?」
「いつからここにいるんだ?」
 目を丸くしているグレイを見て、ティオは満面の笑みを浮かべる。
「昨日の夜からだよ。ベッドの下にいたんだけど、リディアが俺にイビキをかかないで寝ろって言うから、こっちで寝たんだ」
 イビキ、と繰り返し、グレイは冷笑した。
「護衛はどうしたよ。リディアのところにいるモノだとばかり思ってた」
「ええっ?! 護衛というのはこの子供だったんですか? ではレイクス様はリディア様とお二人で一晩?!」
 話す勢いと共に立ち上がったイージスに、グレイは、声をおさえて、と、両手の平を向ける。
「いや、そうだろうけど、そんなに心配しなくても。好きな娘からありったけの信頼を受けてたら、男はなかなか裏切れないものさ」
 グレイの言葉にも、イージスは不安を拭えないのか心配そうな顔つきを崩さない。
「あれ? 信じてくれないのかな? 過去を疑いたくなっちゃうな」
 肩をすくめたグレイに、イージスは眉を寄せた。
「そうではありません。もしリディア様がライザナルへ行きたくない、レイクス様を行かせたくないとお考えでしたら……」
「リディアがフォースを襲うって? そりゃ面白い」
 グレイは思わず朗笑した。イージスは、フォースとリディアのいる二階を気にしながら、困り果てている。
「いえあの、面白いとか、そういった話しでは……」
 本気で困っているその様子に、グレイは笑いながら席を立った。
「分かったよ。様子を見に行こう」
 グレイはイージスに手招きをすると、階段を上がった。後ろから足音がついてくる。
 階段を上りきって二階の廊下を見ると、部屋の前にいるバックスが手を振ってきた。少し歩を進めると、ついてきたイージスが目に入ったのだろう、バックスの表情が少し硬くなる。グレイはそれに気付かぬふりでバックスに笑みを向けた。
「まだ寝てるんだ?」

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