レイシャルメモリー 4-05
「部屋に入って鎧外して、たいして経たないうちにグーグー寝やがったらしい。リディアちゃんが側にいたいって言うから、後はそのまんま」
いくらか控え目な声でそう言うと、バックスは肩をすくめた。グレイはドアを指差す。
「ティオが一緒じゃないのに?」
「え? 中だろ? じゃなきゃ、フォース冷やかしに行ってる」
その言葉で、イージスが目を丸くした。グレイはイージスに苦笑を向ける。
「いや、こっちじゃただの騎士だからさ。もどっていきなり敵国の王子様扱いされても困るだろ」
はぁ、と、イージスはあいまいな返事をした。グレイはもう一度バックスに向き直る。
「ティオはソファーの下で寝てるよ」
「ホントか! じゃ」
バックスはくるっと後ろを向くと、グレイを通すためにサッサとドアを開けた。止めようとしたイージスの手が空を切る。グレイは部屋へ入り、ベッドの側に立った。
「うはっ、なんてカッコだ」
そう言うとバックスは、ドアの側で吹き出すのを無理矢理押さえたように息を詰めて笑っている。グレイはベッドの隣に立って二人に目をやった。リディアは、その両腕でフォースの頭を胸に抱え込むようにして眠っている。
「リディア? 朝だよ。いい抱き枕だね」
笑いをこらえて、グレイはリディアに声をかけた。リディアがゴソゴソと動き出す。
「ん……、グレイさん? おはようございま……、えっ?!」
どういう格好でいたのか理解したのだろう、リディアが一気に顔を赤くして飛び起きた。
「わ、私……」
バックスはドアのところに立ったまま、笑いながら口を開く。
「フォースのこの状況、運がいいのか悪いのか、どっちだろうね?」
「しかし、相変わらず起きない奴だな」
グレイが眠っているフォースに顔を近づけた時、バックスの鎧が音を立てた。それと同時にフォースの目が開く。
「うわっ! ぐ、グレイ?! なにやってんだよ。せっかく気持ちよく寝てたのに」
フォースは目の前の顔に驚いて上半身を起こし、グレイに不機嫌な顔を向けた。グレイは馬鹿笑いをはじめる。
「そりゃ気持ちいいだろうよ」
爆笑しながらそう言ったグレイに、フォースは訝しげな顔を向けてくる。リディアが顔を赤くしているのが視界に入ったのだろう、フォースはリディアに疑問を向けた。
「どうしたんだ?」
「え? あ、わ、私……」
ますます顔を赤らめて言葉を詰まらすと、リディアは両手で隠すように顔を覆った。バックスは見張りの体勢でこちらに背を向けたままだが、肩が揺れているので笑っているのが分かる。
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