レイシャルメモリー 1-10
「うわっ?!」
その衝撃にサーディが頭を押さえる。
「グレイさんっ?! もう、どうしてそんな」
グレイに歩み寄りかけたリディアを追い抜いて、ティオがグレイに駆け寄った。
「頭叩いちゃダメだよ。メナウルもライザナルも、次期皇帝がバカになっちゃうよ」
頭を押さえたままのサーディがブッと吹き出す。フォースは、継がないよ、と苦笑した。視線を向けてきたグレイとサーディに、フォースは順番に目を合わせる。
「マクヴァルは立場的には半分親みたいなモノだからな。失脚させるというのは、そういうことだ」
グレイとサーディは、沈痛な面持ちになり、目をそらすようにうつむいた。フォースは肩をすくめる。
「それに、皇帝を継ぐ者が隣国の皇女と婚姻関係を結ぶことになる。願ったり叶ったりだろ?」
「でも、お前はライザナル皇帝の……。せっかく分かったのに……」
サーディはすべてを言葉にできず、口をつぐんだ。
「俺は最初からメナウルの騎士だ。その点じゃあ得たモノはあるけど、何も失っていないよ」
フォースの言葉にサーディは、暗い表情で、そうだけど、と口ごもる。
「向こうでの地位なんてどうでもいい、何も失うわけにはいかないんだ」
そう言ってリディアと笑みを交わすと、フォースはサーディにその笑みを向けた。
「首にするなよな」
「しねぇよっ」
サーディは、眉を寄せたままの顔で言い捨てるように答えた。その様子にフッと息で笑うと、フォースは荷物に手をかけた。
「じゃあ、行くよ」
その言葉に、サーディは慌てて視線を向ける。
「え? もう?」
「ああ、行け行け」
グレイは、いつものように涼しげな顔で言う。フォースは、その会話に懐かしい思いがあることが嬉しかった。またここに帰ってこられる、そう確信できた気がした。
フォースは、ティオと一緒に荷物を持って、リディアと外へ出た。ティオの頭にとまったままのファルに、頼むよ、と声をかけ、足輪に厚い紙に書いたジェイストークへの手紙を差し込む。
フォースに元気よくうなずいて見せたティオが何事かファルに話しかけると、ティオはファルを、よろしくね、と空に放った。ファルはぐんぐん遠ざかり、すぐに視界から消えた。
フォースは扉の所にいるサーディとグレイに手を振り、リディアと笑みを交わして神殿を後にした。
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