レイシャルメモリー 1-09
「スティアを迎えに途中まで出てるんだろ? 無理だ。イージスの日程と被る」
そう言いながら、イージスを先に帰してしまえばよかったかと思う。だがそれだと、イージスが一緒に行動しようと思うと、いくらでも都合が付けられてしまうのだ。信じていないわけではなかったが、万全を期したい。
「まぁ、フォースが早く帰ってきてくれれば問題ないけどね」
肩をすくめたグレイを見て、フォースは笑みを浮かべた。
「サッサと戻るさ」
フォースが扉の側に置いた荷物に手を伸ばすと、その扉にノックの音が響いた。その扉はすぐに開かれ、頭にファルを乗せたティオが入ってくる。なんだティオか、と思い、再び荷物に目をやったフォースの視界に、人の足が入ってきた。視線を上にやると、目が合ったその顔が笑みを浮かべる。
「サーディ? ずいぶん早いな」
「また何も言わずに出ちまうんじゃないかって思って、急いで戻ったんだ」
半ばあっけにとられてその言葉を聞くと、フォースはうつむいてノドの奥で笑い声をたてた。
「すぐに会えるのに」
「お前は、またそうやってっ。スティアから聞いたよ。向こうでの、いろいろ……」
人が操られるとか、溶けるとか、そういったことを聞いたのだろうか。サーディはひどく心配げに顔をしかめる。
「大丈夫だ」
「そんなこと言っても」
「気をつけなくてはならないのは、マクヴァル本人と神官、特に信仰の厚い人間くらいだ。大きな神殿は避けて通るし、だいたいが俺は幽閉されていることになっているんだし」
伝えるのがこの程度なら、心配せずにすむだろうかと、フォースはそれだけを口にした。だが、サーディの表情は変わらない。
「俺はそんなことを聞いても、どの程度危険かなんて分からない。心配なのは変わらないよ」
「だから、大丈夫だって」
フォースはサーディの顔に目をやって笑みを向けた。サーディはフォースのすぐ側に立って顔をのぞき込むように見る。
「今度は一人じゃないんだ、そんな気軽に考えていたら」
「言われなくても身に染みてる」
フォースは視線をリディアに向けた。見下ろしたリディアが微笑みを向けてくる。
「フォース、俺……」
サーディの声が耳に届き、フォースはサーディに視線を戻した。目が合ったことで自分が声をかけられたのだと気づく。
「何?」
聞き返したフォースと向き合い、一呼吸おいてサーディが口を開きかけると、いつの間にか側に来ていたグレイが、手にした厚い本でサーディの後頭部を叩いた。
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