レイシャルメモリー 1-08


「ライザナルに入ったということを、アルトスに伝えて欲しいんだ。それと、一緒に残った兵士の怪我もだいぶいいようだから、ライザナルに連れ帰って欲しいし」
 イージスは素直に、ハイ、と返事をして頭を下げた。分かってくれただろうかと思いながら、他の不安も頭をよぎる。
「マクラーンにはファルに行ってもらおうと思っているんだけど、キチンと伝えられるか不安なんだよな」
 フォースがファルを呼び寄せた合図を、ジェイストークが覚えていれば、手紙は渡るはずだ。やりとりができるようになれば、間違いなく便利になる。ただ、塔の窓は二つともふさがれているのだ、その状態で無事に手紙を渡せるかは分からない。
「フォース?」
 駆け戻ってきて見上げてくるティオに、フォースは視線を向けた。
「ファルには、上手くいかなかったら俺を捜して戻ってくるように伝えるよ。何度か頑張れば大丈夫だよ」
 思考を読んだのだろうティオの言葉に慰められているような気がして、フォースは少し照れたように苦笑した。
「私もアルトスとマクラーンに戻りますので、レイクス様とリディア様がライザナルへ入られたこと、お伝えいたします」
 イージスの言葉に、ああ、とうなずきながら、別行動を取ってくれる内容の返事に心底ホッとする。
「他に何か、お伝えすることは」
「いや。会って話すよ」
 フォースの返事に、イージスはいくぶん緊張の残った笑みを浮かべた。
「ぜひ、そうされてください」
 イージスはそういって頭を下げると、再び口を開く。
「それでは、私は兵士と連絡を取って、明日出発することにいたします。どうか、ご無事で」
 イージスは深く頭を下げると、部屋を後にした。ティオが、ファルを呼んでくる、と、イージスのあとから外へと出て行く。
「イージスさんは時期をずらして明日か。ホントに、もう行くんだな」
 グレイはそう言うと、いくらか引きつった笑みを浮かべた。
「またサーディが来る前に行くのか?」
「ケンカしそうだしな」
 一人でライザナルへ行く時も、前日には言い合いになってしまった。しかも、絶対決着が付かないような、昔のことまで引きづり出してきてだ。その時はひどくバカバカしいとも思ったのだが。
「フォース、俺はそれも必要だと思うよ」
 グレイが言った言葉にうなずきたい気持ちがあるのを、フォースは漠然と感じていた。
 あれはケンカとは違ったのだろうか。ただ、それまで積み重ねてきた関係を、確認したかったのかもしれない。だから無意味なことで言い合ったのだ。

1-09へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP