レイシャルメモリー 1-07


「はぁじゃないだろ。ティオ、いいんだよ、それで」
 グレイにいいと言われて嬉しかったのだろう、ティオはケラケラと笑っている。フォースはその様子を見てため息をついた。
「よくない。なんか物凄い抵抗が」
 買い物をしながら、イージスが教えたのだろう。フォースは静かに笑みをたたえているイージスに視線を向けた。
「一緒にいる子供が他人というのは、おかしいです」
「そうだけど。いくつの時の子だよ」
 実際、こういう細かなところに気付いてくれるのだから、ありがたいとは思う。でもやはり違和感が激しい。当惑しているフォースを見て、イージスは苦笑した。
「私はお兄ちゃん、お姉ちゃんと呼びなさいと言ったのですが」
 その言葉を聞いて、フォースは思わずリディアと顔を見合わせた。それから二人でティオに視線を向ける。
「おい」
「ティオ」
 ほとんど同時の声に肩をすくめ、ティオは目をキョロキョロさせた。駆け出す一歩手前で、フォースはティオの襟首をつかんで引き留める。しっかりした洋服を着ているというのは、こういう時にも便利だ。
「こら。逃げるな」
 リディアはフォースに苦笑を向けると、服をつかまれたままでいるティオの前にかがみ込んだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ね?」
「……、はい」
 ティオがリディアの顔を見て素直に言うことを聞いたのは、実はリディアの感情を読んで怖かったのだろうとフォースは思った。ティオはエヘヘと笑いながらフォースを見上げてくる。
「女心なんて、どうやって勉強するの?」
「俺に聞くなよ」
「そうだね」
 ティオの即答を聞いて、フォースは苦笑いと共にため息をついた。ティオはニッコリ微笑むと、グレイの所へ走っていく。もしかしたらグレイに聞きに行ったのかと不安に思いながらリディアに目を向けると、リディアは困ったような顔でフォースを見上げてきた。
「どうした?」
 フォースがたずねると、リディアは一瞬目を丸くし、うつむいて首を横に振った。頬が上気しているように見える。
 イージスが申し訳なさそうに、あの、と声をかけてきた。
「やはり、ご一緒させてはいただけないのでしょうか」
 イージスの言葉に、フォースはうなずいて見せた。イージスは、そうですか、と明らかに寂しそうな顔をする。だが、これはお互いの安全のためにも、譲るわけにはいかないのだ。

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