レイシャルメモリー 1-06


「服のせいで、でかくなれなかったら、それも困るけど」
 階段の上でコトッと音がして見上げると、リディアが手すりから上半身だけ出して手を振った。
「大丈夫よ。スルッと抜けられるから」
 話しが聞こえていたらしく、リディアはそう言って笑みを浮かべると、階段を下りはじめる。
「そうなんだ? 相変わらず便利な奴だね」
 グレイはやはり笑いながらそう言った。
 フォースは階段を下りてくるリディアに目を奪われていた。着ている服が巫女のモノではなく、街の人が着るごく普通のスカート姿なのだが、薄く明るい暖色のせいか、とても華やかに目に映る。
 階段の手すりの影からこちら側にくると、いつもは巫女の服で隠れている足が見え、フォースは思わず目を見張った。グレイがしっかり抱えていたはずの厚い本が、後頭部でバシッと大きな音を立てる。
「痛っ」
 その衝撃にフォースは頭を抱えた。リディアが駆け寄ってくる。
「グレイさんっ?! なんてコトを! 大丈夫?」
 フォースは、心配げにのぞき込んでくるリディアに苦笑を返した。
「いや、俺の挙動が大丈夫じゃなかったから」
「そうそう。シェイド神よりも難敵だと思うよ」
「何もそこまで言わなくても」
 とっさにそう返したが、考えようによっては仕方がないかもしれないとも思う。フォースは反論する気までは起こらなかった。
 まさか足が隠れるからと、巫女の服を着ていてもらうわけにはいかない。だが実際神殿を出てしまえば、周囲に気を配っていなくてはならないので、リディアの方ばかりを見てはいられないのだ。その上ティオもいるのだから、人に心配されるほど危険だとは思わない。
 グレイにため息を向けてからリディアを見下ろすと、リディアはわけが分かっているのかいないのか、すぐ側から顔を心配げにのぞき込んでいる。フォースが笑みを浮かべると、リディアは安心したように微笑んだ。
 ノックの音がして、扉が外から開けられた。まず入ってきたのは洋服を着たティオで、その後からイージスが入ってくる。ティオはまっすぐフォースとリディアの所に駆け寄ってきた。
「とうちゃん!」
「はぁ?!」
 ティオの発した言葉が自分に向けられていると分かって、フォースは素っ頓狂な声を出した。リディアもキョトンとしてティオを見ている。
「かあちゃん……?」
 ティオはもう一度、今度はリディアの顔色をうかがうように、おずおずと声を出した。フォースが何も言えずにいると、また笑い出したグレイが口を開く。

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