レイシャルメモリー 1-05


 フォースにとって自分の荷物は無いに等しかった。ほとんどはリディアがまとめた荷物だ。
「リディアの荷物はティオが持って歩くんだろうから、もうちょっと多くてもいいのにな」
「よくない」
 当然のことだが、荷物の分だけ移動が遅れるのは間違いない。フォースが言い捨てると、グレイは苦笑した。
「分からなくはないけど」
「荷物より、むしろリディアを運んでもらおうと思ってるんだ」
 フォースが笑みを向けると、グレイはポンと手を叩き、そういうこと、とうなずく。
「馬は無理か」
「併用はするつもりだ。でも、山沿いを目立たないように進むのが一番危険はない。あまり使えないだろうな」
 メナウルに戻る時に通った馬車のある拠点は、すべて記憶に残っている。そこの馬を利用できないこともない。と言っても堂々とレイクスだと言って借りられないので、黙って拝借して、黙って次の拠点に置いてくることになるのだが。
 そのくらいなら、その道筋を通るとイージスにでも頼んで話しを通し、全部利用の上で一気にマクラーン入りした方がいいだろうか。正面から乗り込むという手もあることはある。グレイは小首をかしげてからうなずいた。
「目立たないように、か。確かにそうした方がイージスさんと行動しなくて済むだろうしね。時間は掛かってしまうだろうけど」
「安全が第一だ。仕方がない」
 イージスは一緒に行動することをまだあきらめていないようだ。だが、目立たないようにするためにも、イージスのようなシェイド神の攻撃から守る手段がない人間を無事に帰すためにも、やはり側にいてはいけないと思う。
 馬を利用して一気に移動すると、マクラーンに戻ると言っていたイージスとアルトスの二人もほとんど同時に行動することになってしまうので、相当な危険が伴ってしまう。
 マクヴァルを斬りに行くなどという行動がバレた時点で、シェイド神の力を使っての実力行使が始まるだろう。巫女と戦士以外は、なるべく同じ行動をしている者がいない方がいい。下手をしたら、イージスやアルトスも溶かされてしまうことになりかねない。
 フォースは、じかに付いて行くか行かないかの話しなのにイージスの反論が無いことでイージスの不在に気付く。
「そういやイージスは?」
「買い物だよ。ティオの服を買うってさ」
 どうりで静かなはずだとフォースは思った。
 確かに、いつものように布切れをまとったようにしか見えない服で、人間の振りをするには無理がある。通りを歩く時のために、服はあった方がいいのだろう。
 グレイはいかにも可笑しそうにノドの奥で笑い声をたてている。
「大きくなったら破れてしまうだろうね」

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