レイシャルメモリー 2-02
人差し指を答えの数の分だけ立てて話し続けるグレイに、サーディはなにもリディアの真似までしなくていいのにと思いながら顔をしかめた。
「四番は無い」
「そうだな。フォースの前だからこそ、サーディを罵倒して欲しいんだけど」
リディアが自分を許したら、フォースが辛い思いをするだろうことは分かっているつもりだ。
「だから、直接フォースになら謝れるかと思って」
サーディの言葉に、グレイはため息をついて腕組みをした。
「どうしてリディアは何も言ってくれなかったんだろう、そんなことを隠したり庇ったりするなんて、もしかしたらリディアにサーディのことを好きだっていう気持ちがあるんじゃないだろうか」
反論しようとしたが、サーディは言葉が出ずに口をつぐんだ。フォースとリディアは、もう充分に信頼を築いているのだとは思う。だが信頼しているからこそ、自分の言葉が意味を持ってしまう可能性が無いとは言い切れない。
「それは、……、そうかもしれない」
つぶやくように言うと、グレイは再び顔を突き合わせてきた。
「いいか、あれは既に終わったことだ。フォースを傷付けてでも、記憶の彼方に葬り去りたいってんなら」
「そんなわけじゃ」
慌ててそう答えてから、謝ることですべての解決にはならないと気付く。
「……無いつもりだった」
「なら何も言うな。忘れろ。話しを蒸し返しただけじゃ終わらない。サーディの中だけで解決を付けるんだ」
やりすぎだろうとは思うが、本で頭を殴ってでも止めてくれたことを、グレイに感謝する。サーディは気を落ち着けるように息をついた。
「ずっと罪悪感を抱えていかなきゃならないんだな」
「まぁ、自分が悪いと思っていることをした分は」
謝れば自分の気は済むかもしれない。でもこの状況で謝るのは、傷付けたと思った人をさらに傷付けてしまうことになる。
「痛いよ……」
「だからって自分を傷付けている刃を人に向けたりしたら、未来永劫、大気のままだ。熱砂に焼かれ、岩盤に削られ、海中に囚われ、トルヴァールには絶対に行けない。魂は休まらない」
熱砂に焼かれ、岩盤に削られ、海中に囚われ。人が死んで、魂が地中にあるトルヴァールという国に行けなかった時は、そうして風と一緒にさ迷い歩くことになると教義で教えられている。
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