レイシャルメモリー 2-03
「もう分かったよ。だから教義を持ち出して脅すな」
「バカ言え、俺は神官だぞ。ついでに懺悔を受けたのも俺だ。サーディにはこれ以上悔いを残して欲しくない」
トルヴァールでこの大地に抱かれ、魂は浄化されるのだ。この痛みもその時には間違いなく消える。そう思うとわずかだが気持ちも落ち着く。だが、対面で話したことまで、懺悔と言えるのかどうか。
「ついでに言えば、サーディはユリアに気持ちを知られただけで、告白もしていないんだと思うぞ?」
グレイが落ち着いた静かな声で言った言葉に、確かにそうかもしれないとサーディはうなずいた。ユリアには好きだという気持ちが存在していると言っただけだ。
だがそこまで言っても、付き合って欲しいなどと言い出す勇気は出なかった。自分と付き合うということは、そのまま結婚を意味するし、ユリアは既に違う道を選んでいるのだ。告白したところで、いい返事をもらえる自信は起こらない。
しかも、どちらかと言えば、サーディにはグレイも苦労ぜずにモテている部類に見える。その辺りを分かってもらえるのかは非常に不安だ。
「グレイはそういう感情を持ったことはないのか?」
「あるよ」
グレイから簡単に帰ってきた言葉に驚き、サーディは思わず聞き返した。
「誰に?」
「シャイア様」
「ホントに?」
「……、シャイア様だ」
二度目のその名前は、ひどく苦しげに聞こえた。シャイア神の像はリディアに似ている。しかも現在降臨を受けているのがリディアなのだ。もしかしたらリディアのことを言っているのではないかと思い、サーディは思わずグレイの顔に見入る。
「懺悔してくる」
グレイはそう言うと、一瞬の笑みを浮かべて身をひるがえした。
「え? ちょっと待っ」
「マズイだろう、やっぱり。神官がそんなことを考えてたんじゃな」
振り向かずに手を振りながら神殿へと続く廊下へ入っていくグレイを、サーディは止めることができなかった。
グレイの受け答えが、いつもよりほんの少しキツイ気がしていた。だからグレイが言ったシャイア神というのが、リディアを差しているのかもと思ったのだ。
もしかしたら、グレイをも傷付けてしまったかもしれない。サーディは大きくため息をついた。無意識に、まいったな、と言葉が混ざる。
「お茶をお持ちしました」
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