レイシャルメモリー 2-04


 その声に驚き、思わず振り返った。ユリアがお茶のトレイを持ち、眉を寄せた顔で部屋に入ってくる。その視線は扉の側、フォースとリディアの荷物が置いてあった場所に向けられていた。
「フォースなら、ついさっき行ったよ」
 サーディがそう伝えると、ユリアはその名前に一瞬目を見開き、それから笑顔を作った。
「無事に帰ってきて欲しいですね」
 どこかぎこちない声に聞こえたのは、ユリアはまだフォースのことを好きなのだと、分かってしまったからだろうか。そうだね、と言ったサーディの返事を聞いて、ユリアは作り切れていない笑顔でサーディの右隣に立ち、お茶を一つテーブルに移す。
「どうぞ」
 ありがとう、とサーディは微笑みを返した。トレイの上にはもう一つ、グレイの分のお茶が乗っている。それを指差し視線を向けると、ユリアは肩をすくめた。
「グレイさん、行っちゃいましたね」
「忙しい?」
 ほとんど同時に言葉が出て、思わず苦笑し合う。ユリアはもう一つのお茶をテーブルに移すと、サーディの隣の席についた。
「今度帰ってきたら、結婚式でしょうね」
 ユリアは目の前にあるお茶に目を落としたまま、それでも明るい声でそう言った。
「多分ね。そうなって欲しいって思ってる」
 サーディの言葉に、ユリアはゆっくりうなずいた。その表情は、緩やかな微笑みを浮かべたままだ。
 グレイに言わせれば、ユリアはまだフォースを忘れてはいないらしい。確かに、ユリアを見ていると、その視線の先にはフォースがいるような気がする。
「聞いても、……、いいかな」
 そう言いながら、まだフォースを好きなのかなどと、聞いてはいけないのだとサーディは思った。グレイを傷付けてしまったかもしれないのに、この上ユリアまで傷付けてしまうことになる。だが、サーディのそんな考えなど知るよしもなく、ユリアはサーディの顔をのぞき込んで言葉を待っている。
「あ、あの、結婚式の時、結婚する二人に大きな白い布をかぶせるだろ?」
 なんとかごまかそうと、サーディは適当に話しを切り出した。ユリアはホッとしたようにフワッと微笑む。
「素敵ですよね。新しい一つの家庭という範囲の象徴とか言われていますけど。たいてい中でキスしていらっしゃるんですよね」
「そうなの?」
 思わず聞き返したサーディに、はい、と返事をして、ユリアはクスクスと笑い声をたてる。
「それが何か?」
 ユリアの問いに、サーディは一度言葉に詰まってから口を開いた。
「あぁ、あの布って、神殿で準備するの?」
「ええ、神殿にもあります。でも、最近は持ち込まれる方が多いんですよ」
 ごまかすつもりで始めた会話に、サーディはつい真剣になってくる。
「え? あんな大きな布、どうするんだろう」

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