嘘の中の真実 1-1
ここ、表通りから一本脇にずれた道の両脇には、石造りの店が並んでいる。既に日が落ちた後なのだが、この通りは早朝から夜遅くまで人通りが多い。木でできた扉の隙間や開かれた窓から、笑い声や歌声、談論する声などが部屋の明かりと共に溢れている。
大柄な鎧の立てる金属のぶつかる音が、その喧噪を割って進む。名をバックスという中位の騎士だ。
「明日は手伝えよ? お偉方だからって休暇ばかり取ってないで」
バックスはそう言うと、並んで歩いているフォースに不満そうな顔を向ける。フォースはチラッとだけバックスを見やると、不機嫌に顔をしかめた。
「バカ言え。二ヶ月ぶっ続けで休んだって首にならないだけの休暇が溜まってるっていうのに」
「そんなに?」
目を丸くしたバックスに、フォースは苦笑する。
「上に人使いの荒い親父が居るからな」
その言葉に、バックスは納得したのか、手のひらを拳でポンと叩いた。
「息子になら無理も言いやすいか」
「冗談じゃねぇ」
速攻で言い返したフォースの肩に手を乗せ、バックスは半分笑いながら、まぁまぁ、となだめる。胡散臭そうに見上げたフォースに、バックスは片目をつむって見せた。
「んじゃ、明日ここでな」
「は? 分かってないな?」
フォースが滅多に休みを取らないことは充分理解しているはずなのだが、バックスは取って付けたような笑いを残して、前方へ走り去って行った。
フォースとバックスの付き合いは、騎士になる数日前から続いている。階級はフォースが一つ上だが、バックスは同じ騎士仲間でいて、友人であり兄のような存在だ。今回の異動で城都勤めになったバックスと、仕事だろうがプライベートだろうが、前線から戻るたびにどこかで会う算段をつけようとフォースは思っていた。
ほとんどバックスの姿が見えなくなった時、フォースの背中に何かがぶつかる衝撃があった。身体に腕が回され、背中から誰かに抱きつかれている。
後ろを振り返ると、フォースの亡くなった母親と同じ、亜麻色の髪が目に入ってきた。見上げてきたその顔には、全然覚えがない。だが、その女性は人違いをしたとは思っていないようだ。二十歳を数年超えたくらいだろうか。ブラウンの瞳を不安げに細め、赤く彩られた薄い唇をフォースの耳に寄せてくる。
「バックスさんの知り合いでヴェルナっていうの。ごめんなさい、助けて」
そのヴェルナという女性は、小声の早口でそう伝えてきた。ほんの少し前までバックスと一緒にいたのを見かけたのだろう。フォースがうなずくと、ヴェルナは振り返って今来た方角へと視線を向けた。そこに、まぶしいほど明るいランプを手にした男が立つ。
「だから私、待ち合わせしてるって言ったでしょう?」
「そんな都合のいい話、信じられるかっ。おい、お前。怪我したくなかったら関わらない方がいいぞ」
男に向けられた言葉に、フォースはヴェルナを後ろ手に庇うと、数歩前に出て、突き出されたランプにわざと顔をさらした。