嘘の中の真実 1-2
「あんた誰だ? ヴェルナに何か用があるのか?」
日が沈んでしまえば黒く見える自分の目も、これだけ強い明かりがあれば本来の紺色に見えるだろうとフォースは思った。
この国、メナウルにはフォースと同じ瞳の色をした人間は居ない。この色はそのまま、首位騎士の息子で上位騎士でもあるフォースだという印なのだ。
思った通り、その男はギョッとしたように目を見張ると、ランプを引っ込め、引きつった愛想笑いを浮かべた。
「い、いや、悪い。人違いだったみたいだ」
そういいながら少しずつ後退ると、スマンと一言残し、男は逃げていく。フォースが振り返ってヴェルナを見ると、キョトンとした顔で男を見送っていた。フォースはその顔を横からのぞき込む。
「大丈夫?」
「もしかして、あなたって悪い人?」
すぐ側のフォースに視線も向けず、走り去る男の後ろ姿を目で追いながら、ヴェルナは問いを返した。
「は? 悪くはないと……」
言われてみれば、男はフォースの目を見ただけで逃げていったのだ。ヴェルナは自分の目の色を見ていないのだから、自分が顔が利く悪い奴に思われても仕方がないかと思う。
逃げていった男が見えなくなって、ヴェルナは改めてフォースを見上げてきた。その瞳はメナウルでは一般的な茶色をしている。じっと見つめてくる視線に、フォースはとまどいながら視線を返した。
「いや、いい人でもないんだけど」
フォースがどうしていいか分からず付け足した言葉を聞き、ヴェルナは安心したようにフッと息で笑うと、フォースに微笑みを向けてくる。
「ありがとう。正義感の塊みたいなバックスさんが笑顔で話す人だもの、悪い人じゃないわよね」
その言葉に、フォースは苦笑を漏らした。ヴェルナがその苦笑をのぞき込む。
「あら、それとも悪い人なの? あ、女の子泣かせたことがあるとか」
フォースは思わず吹き出して、慌てて口を押さえた。ヴェルナはクスクスと笑い声を立てる。
「あるんだ。うわ、悪い人」
「そんなんじゃ……。そうなのかな」
フォースは、寂しげに顔を歪めた。ヴェルナは、フォースに寄り添うように並んで腕をとる。
「その話、聞いてあげるわ。最近、さっきの男につけられてたみたいなの。戻ってきたら怖いから、ついでに家まで送らせてあげる」
「送らせてあげる? 送ってください、だろ?」
幾らかの笑顔を見せたフォースに、ヴェルナはニッコリ微笑んで、こっちよ、と指を絡めた腕を引く。
「ほら、言ってごらんなさい。名前は聞かないでいてあげるから」
フォースは引かれた方向へと歩き出しながら、ヴェルナに苦笑を向けた。
「意味がない。バックスに聞けば分かる」
「人の説明って大変なのよ? 髪の色が濃くて、目が黒で、普通にカッコいい人。ほら、どこにでも居そうで分からないでしょう?」
「昨日会ってた人」
フォースが呆れたように言った一言に、ヴェルナはクスクスと笑ってチラッと舌を出した。イタズラな表情は、幼く見えて可愛いと思う。