嘘の中の真実 1-3
「聞いてどうするんだよ」
「追いかけられると逃げたくなるけど、逃げられそうになったら追いかけたくなるモノなの。追いかけられてた私が言うんだから、現実味があるでしょう?」
目の前に突き出された人差し指を見て、フォースはなんの話だと、ため息で笑った。ヴェルナは、その表情をのぞき込むように見上げてくる。
「引きずってるぽいってことは、最近の話なんだ?」
「昨日」
フォースが吐き出した言葉に、ヴェルナは、昨日?! と復唱して目を丸くした。その驚きように苦笑して、フォースは言葉をつなぐ。
「会っていきなり平手打ち食らって、泣かれた上フラれた」
その言葉で、ヴェルナの目がますます見開かれる。
「彼女? だったんだ?」
「たぶん」
「たぶんって」
そう返すと、ヴェルナは思い切り眉を寄せた。その表情に罪悪感を感じ、フォースは前に視線を戻す。
「城都を出る時に、いつまででも待てるから付き合えって言われて承諾したんだ。戻れたのが六ヶ月ぶりの昨日で」
ふと、ヴェルナが目をじっとのぞき込んでいたことに気付き、フォースは思わず言葉を切って視線を返す。
「やり逃げ?」
ヴェルナの口からこぼれた言葉に、フォースは目が飛び出さんばかりに驚く。
「や?! やってないっ。指一本触れてない」
フォースの慌てようを横目で見て、ヴェルナは肩をすくめた。
「六ヶ月ねぇ。長い、か。なんにもしなかったからフラれたのかな」
「あ、あんたな……」
フォースは気の抜けた声で言うと、空いている方の手で顔を半分覆う。ヴェルナは少しだけ、のどの奥で笑い声をたてた。
「でも、連絡くらいはしてたんでしょう?」
「全然」
フォースの即答に、ヴェルナは大きくため息をつく。
「あのね。それ、フラれたって言うの? フッたの間違いでしょう?」
ヴェルナの怒ったような声に、フォースは眉を寄せた。
「俺の仕事には、居場所を明かせない期間ってのがあるんだ。それが思ったより長くなってしまって」
「騎士みたい」
騎士なんだけどと思いつつ、フォースはうなずいた。ヴェルナは難しい顔をして何か考えている。
「やっぱり、冗談じゃなくて、なんにもしなかったからじゃない? 愛されているって実感があれば、同じ六ヶ月でも違うわよ」
「何かすれば、愛されてるって思えるのか? それって随分短絡的だと」
グイッと腕を引かれて振り返ったフォースの唇に、ヴェルナは唇を重ねた。
「そういう風にできているの。嘘でも思ってしまうモノなの。そうでしょう?」