嘘の中の真実 5-1


「そうそう、ヴェルナなんだけど」
 三ヶ月の後、前線から戻ったフォースが城都の城内執務室で書類に向かっている時、バックスは、そう話を切り出した。
「実家に帰ったよ。なんでも、結婚してみたくなったとか。親が薦める人に会ってみるってさ」
「そうなんだ」
 書類から目を離さずにそう答えながら、フォースは確かに冷めつつある気持ちを感じて苦笑した。風化していく気持ちと相まって、ヴェルナと話していて気付いたもう一つの大切な気持ちが、どんどん育ちつつある。別れの時にヴェルナを追いかけることができなかったのは、自分がもう一つの想いを選んだからなのだろう。そして結局ヴェルナも、違う道を選んだのだと思う。
「なんでも、好きな人ができたんだけど嘘から始めちゃって、一日で別れたものだから寂しくて、だと。女はわけが分からん」
 嘘という言葉が、フォースの胸で跳ねた。ペンを動かしていた手が止まる。まさかと思う。もしそうだったなら、ヴェルナはあの時、なぜ続けようとしなかったのか。自分がヴェルナを引き留めれば、違う結果があったのかもしれない。
 バックスは残念そうに、でもあっさり諦めたとばかりにノビをする。
「あーあ、いい女だったんだけどな」
「そうだね」
 それにしても、自分に向かって間違いなく幸せになれるなんて、ヴェルナはどうして言い切れたのだろうとフォースは不思議に思った。幸せに思える状況がどういうものなのだか、フォース自身でも想像がつけられないでいるのに。
 ふと、机の向こうからバックスが顔をのぞき込んでいるのにフォースは気付いた。
「なに?」
「ちょうど年上の女がよく見える年頃だよな。まぁ、元気を出せ。大丈夫だ」
 どうもバックスは慰めてくれるつもりらしい。フォースは苦笑した。
「大丈夫って、なにが?」
「ヴェルナはちょっと変わった奴だからな。俺が女なら、フォースの地位と顔だけで結婚してるぞ」
 その言葉に、フォースは思わず吹き出し、何をかいわんやと視線を投げた。
「俺はバックスが女でも絶対結婚しない」
「なにぃ? このクソ生意気な」
 バックスは、丸めた書類でパコンとフォースの頭を叩く。
「絶っっっ対結婚しないっ」
 フォースは頭を抱え、その言葉を繰り返した。

☆おしまい☆


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