新緑の枯樹 16-3


 アルトスは一瞬唖然とした顔をして、気を取り直したように苦笑いをした。
「まさかそこまでガキだとは。馬鹿げてる」
「なんだか勘違いしてないか? 十七は大人かな」
「十七だと?!」
 アルトスは声を大きくした。ひどいな。何もそんなに驚かなくてもいいと思う。
「スピオンに情報を持っていってもらったんだ。穴掘りも面白くて苦にならなかったし。こうしてみるとこの穴、結構深いな」
 俺は笑いをこらえながら、手にした短剣をアルトスの頭の上方めがけて投げた。奴が飛び上がれば、もう少しで届きそうな土の壁に突き刺さる。
「何やってる。きちんと当てろ」
 俺がアルトスに当てようとして短剣を投げたと思ったのだろう、アルトスはフンッと鼻先で笑った。俺は可笑しくなって思わず笑い声をたてた。
「短剣、いらないのか? そこからどうやって出るつもりだ」
「出るだと?」
 アルトスは目をそらさずに俺をにらんでいる。出るといっても道具が短剣一本では、えらく苦労するに違いない。俺は立ち上がり、手についた土を払った。
「何を考えている? 俺を逃がすつもりか? 後悔するぞ!」
 俺が背を向けようとすると、アルトスはサッサと殺せとばかりに騒ぎ立てた。やっぱり言葉にしなければ伝わらないか。俺は肩をすくめて苦笑した。
「命は大切にしたほうがいい」
「なにっ?!」
「戦なんて、馬鹿げてると思わないか?」
 アルトスは怒り半分で驚愕の表情をした。自分までが口説かれるとは思ってもみなかったのだろう。そのアルトスを穴の中に残して、俺はサッサとその場をあとにした。もし穴に落とせなかった時のため、草を結んで輪を作ってあるので、ここに来た時と同じように、足元に気をつけて歩く。スピオンがライザナルの諜報者だとハッキリしたからには、しばらくはアルトスと遭うこともないだろう。
 結局、俺が今できることはこんなことくらいしかない。でも、どんな細い糸口でも、たくさん集めればきっと引き寄せるだけの力を込められる物になる。今なら素直にそう信じることができる。どんなに小さな希望でも、絶対に捨てたりはしない。みんなのため、リディアのため、そして何より自分のためにも。
 生きたいと思う気持ちが、こんなにも力になるものだったなんて。この思いは、大切に育てていかなければならない。そしてそれを元に、俺はこれから少しずつでも強くなっていきたい。
 俺はもう一度ペンタグラムに触れて、リディアを想った。

☆おしまい☆


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