大切な人 1-8


 そしてそこにもう一つ、虹色の意識、シャイア神も確かにうごめいている。降臨を受けなければ、今頃は二人で普通の生活を営んでいたはずなのだ。でも、シャイア神がいるからこそ、フォースの力になれることもある。
「部屋に、行かなきゃ」
 フォースがうなずくのを見て、リディアは机の上に置いてあったまだ小さな苗と支柱を手にし、大切そうに抱え込んだ。
「これ、どうもありがとう」
 リディアのお礼に笑顔を向けてから、フォースはその苗の正体を聞いていなかったことを思いだした。
「あ、いや……」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
 フォースは苗の名前を聞くのをあきらめ、嬉しそうな笑みを浮かべたまま階段を上がっていくリディアが二階の廊下に消えるまで黙って見送った。視線を落とすと同時に、その右端の廊下からグレイがのぞいているのが目に入ってくる。
「やっぱり居たか」
 フォースはため息をつきながら片手で顔を覆った。グレイはにやけた笑いをフォースに向ける。
「あれ、分かってたのか。遠慮のない奴」
「どっちがだ」
 フォースが横目でグレイをうかがうと、グレイは声を殺して笑っている。
「そういえば、あの苗のこと聞かなかったんだな」
「忘れてただけだ」
 フォースがつぶやくように言ったのを聞いて、グレイはフーンとフォースを横目で見た。
「まぁ、どうでもいいって言えばどうでもいいか」
 話を蒸し返され、フォースの中で再び疑問が頭をもたげてくる。
「いったい、なんの苗なんだ?」
「いくらなんでも、花が咲けば分かるさ。ウン、もしもリディアが花なら、あんな感じだろうと思うよ」
 グレイはまだクックと笑っている。フォースは疑わしげな顔をグレイの止まらない笑いに向けた。グレイはフォースと正面から向き合う。
「そうそう、フォース、俺に嫉妬してたんだ」
 グレイの言葉にフォースはブッと吹き出した。
「悪かったなっ」
「なんだ、素直だな。まぁ、あの分じゃ今度相談されるとしても、別れ話くらいか」
 にやついているグレイに、フォースはできる限りの冷笑を向けた。
「いらない」
 相変わらずにやけながら、グレイはフォースの肩をドンとどつく。
「ホントか?」
「必要ない」
 フォースとグレイは視線を合わせ、お互いに笑みを向けた。

☆おしまい☆


前ページ 企画モノ目次 シリーズ目次 TOP