大切な人 2-8


「グレイ、お前が仕組んだのか」
 顔を突き合わせようとする俺に、グレイは両手の平を俺に向け、横に振りながら距離をとる。
「いやいや、仕組んだなんて人聞きの悪い」
 俺が視線を据えて睨みつけると、グレイは冷えた笑い声をたてた。そして何か思いついたようにポンと手を叩き、一瞬前のことをすっかり忘れたように態度を変えて、俺の肩に手を乗せる。
「そうそう、恋人同士だと言うなって禁じたのに、態度でバレバレだ。言葉で言わない意味がなかったよ」
「そうやって禁じておけば、自分が仕組んだことがバレないと思ったんだろう」
 俺のツッコミに、グレイはギクッと身体を引きつらせて背を向け、肩をすくめた。それを見ていたトレイルは、ほぉ? と目を大きくする。
「あれ? そういう策略方面にはスルドイんですねぇ?」
 その言葉を睨み返すと、トレイルは口を押さえて黙り込んだ。グレイは、悪かった、と繰り返しながら俺に向き直る。
「いや、バレないと思ったのもあったけど。もうちょっと意味があったんだよね」
「意味だ?」
「フォースがこれでキレたら面白いかなと思って」
 乾いた笑い声を発しているグレイを見て、俺はため息をつきながら片手で顔の半分を覆った。あまりのバカバカしさに言葉も出ない。
 頬を膨らませて怒った顔をグレイに見せてから、リディアは俺を不安げな表情で見上げてきた。俺が苦笑を返すと、怒る気がないのを分かってくれたのか、それとも反撃とばかりに見せつけるためか、リディアは優しい笑みを見せて首に手を回し、頬にキスをくれる。俺はリディアとそのまま見つめ合い、微笑みを交わした。
「じゃあ、僕はこれで……」
 トレイルは、力の抜けた笑みを浮かべ、外へと続く扉に向かう。
「もし、何か教えていただけるようなことがあったら是非。待ってますので」
 戸の隣に立ち、トレイルは俺に言葉を向けた。冗談抜きでたいした根性だと思う。俺はトレイルに敬礼した。
「頑張ってください」
 俺がトレイルに向けた言葉に、グレイは狐につままれたような、それでいて半分微笑んでいるような顔をしている。
「はいっ。命をかけてっ」
 トレイルは嬉しそうに微笑むと、俺とそっくりな敬礼を残して神殿を後にした。

   ***

 後日、トレイルの演劇に悪徳神官クレイが登場したとの報告を受けた。思い切り笑ってやろうと思ったのだが、グレイはどういうわけか満面の笑みを浮かべて喜んでいた。

☆おしまい☆


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