大切な人
第2話 態度 02-1


「フォース、リディアに愛してるって、ちゃんと言ってる?」
 スティアが言った言葉に、俺は思わず唖然とした。
 恋人のリディアが女神の降臨を受けてしまってから、二位の騎士である俺が陛下の命を受け、リディアの護衛を務めている。
 スティアは皇帝陛下の娘、おしゃべりで頑固な姫君であり、神官長の娘であるリディアとは友人だ。スティアも一応王家の人間なので、騎士の立場としては当然、敬い、尊ばなければならない。だが俺は、スティアの兄、王位継承者であるサーディと学友の立場にあったため、この兄妹とは普段、砕けた付き合いをさせてもらっている。
「好きとか愛してるって、ちゃんと言わなきゃ伝わらないものなんだから」
 スティアはテーブルの向こう側から、人差し指を立てて甲高い声を出す。言われてみれば、愛しているなんて言葉を口にした記憶は全くない。
「ちゃんと言ってる? って、聞いているんだけど?」
「いや、たぶん一度も」
 俺の返事に、スティアは眉をつり上げた。
「一度も? それって一度も言ってないってこと? なにそれ、どういうことよ。だいたいなんて告白したの? 普通告白するときは好きだくらい言うでしょう?」
 いや、言っていない。そのときに交わした会話といえば。
「バカ、ドジ、間抜け、意地悪、鈍感」
「はいぃ?」
「って言われた記憶なら残ってるけど」
 スティアは俺に息が掛かりそうなほど、大きなため息をついた。
「無骨者どころの話じゃないわね……。リディアがそう言いたい気持ちが、よぉく分かるわ。可哀想に」
 俺は可哀想という言葉に面食らった。考えたこともなかったが、リディアもそういう言葉を欲しいと思っているんだろうか。
「女の子って、好きだとか、愛してるとか、そういう言葉が心の栄養になるのよ。飢え死にさせるつもり?」
「い、いや、そんなつもりは……」
「もう。ちゃんと言ってあげなさいよ」
 そう言うと、スティアはツンとそっぽを向く。
 リディアにそんな言葉を言ってと求められたことはない。それとも、ねだったりできないモノなのか。俺自身はそんな言葉を聞かなくても、好きでいてくれると思っているのだが、リディアは違うのだろうか。

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