大切な人 02-2


「スティアは言ってもらってるのか?」
「私?!」
 スティアは一瞬どこか遠くに思いをはせたように見え、それからバツの悪そうな顔をする。
「どうでもいいでしょ、そんなことっ」
 幾分頬を赤くしてうつむいたスティアが、可愛くもあり可哀想でもある。恋人がいることは知っている。でもスティアはそれが誰なのか明かそうとしないのだ。単純に公にしたくないだけならいいが、もしも公にできないような相手だとしたら。
「あ、リディア。お帰りぃ」
 スティアが元気よく手を振った先、神殿や厨房に続く廊下から、リディアがお茶をトレイにのせて戻ってきた。別に出かけていたわけではない。お茶を入れて戻っただけだ。
「リディア、私今までちっとも知らなかったわ」
「え? 何を?」
 声を尖らせて話を始めたスティアを尻目に、俺はリディアを立ち上がって迎え入れた。リディアがお茶を置いたあとの空いたトレイを受け取り、テーブルの隅に置く。リディアに話しかけていたはずのスティアの視線が、いつの間にかこっちに向いている。
「スティア、どうしたの? 何を知らなかったの?」
 リディアの問いに目を向けると、スティアは大きなため息をついた。
「もういいわ。なんだか分かった気がする。あぁ疲れた、損しちゃったわよ」
 その場に立ったままキョトンとしている俺とリディアを交互に見ると、スティアは席を立つ。
「神学さぼってないで神殿に行ってくるわ。あ、お茶、せっかく入れてくれたのにゴメンね」
 スティアは平たい笑い声をたてて手を振りながら、神殿へ続く廊下に消えていった。思わずリディアと顔を見合わせる。
「スティア、いったい何が分かったの?」
「さあ? 俺にはさっぱり」
 首をひねった俺を、リディアはすぐ側に立って見上げてくる。
「ねえ、何の話をしていたの?」
「好きだとか愛してるって、ちゃんと言葉で伝えるように説得されてたんだ」
 リディアは目を丸くしたかと思うと、今度は可笑しそうに目を細めて笑い出した。
「そんな話しをしてたのね。あ、じゃあ分かったって、きっとフォースのことね」
「え? 俺?」
 リディアはこぼれそうなほどの笑みを浮かべて俺を見上げる。リディアにこんな笑みを向けられると、俺はしどろもどろになって何も追求できなくなる。

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