大切な人 02-3


「そういえばスティアの彼、愛してるってたくさん言う人なんですって」
 リディアがスティアとの会話に思いを巡らせているその視線を、俺はまっすぐ見つめた。
「リディアもそういう言葉を欲しいって思うのか?」
 俺の問いに、リディアは苦笑する。
「たまに言ってもらえたら嬉しいのかも知れないけど……」
「けど?」
 首をかしげてウーンと考え込んでしまったリディアを、俺は腕で包み込んだ。視線が合い、息が触れ合う。
「リディア、好きだ。愛してる」
 俺はまっすぐリディアを見つめたまま言った。まったく予想していなかったのか、リディアは俺の言葉に目を見張り、一瞬で顔を赤くする。上気した顔を隠すように、額を鎧の胸プレートにコツンとつけた。
「やだ、お、脅かさないで」
「え? いや、そんなつもりは……」
 何か言おうとしているのか、リディアの震える吐息が首元を撫でていく。ためらいがちに見上げてくる視線が合うと、恥ずかしげに目を伏せる。一つ一つの仕草が無茶苦茶可愛くて色っぽい。俺は、おずおずと顔を上げたリディアの唇に、思わず自分の唇を重ねた。そっと唇を離すと、リディアは両手で頬を覆ってうつむく。どんな顔をしているのか少しも分からない。
「ゴメン、いきなり。その、いろいろ……」
 謝った俺に、リディアはうつむいたまま首を横に振った。
「私、いつも贅沢に伝えてもらってるから、言葉はなくてもかまわないの」
「贅沢?」
 リディアは上気したままの顔を伏せ気味にしたまま、はにかんだような笑みを浮かべてうなずく。
「だって、いつでも態度で示してくれる。大切にしてくれてるって分かるもの」
 リディアの言葉を聞いてホッとした。具体的にどういう態度を汲み取ってくれているのかは分からないが、きちんと気持ちを受け止めてくれている、それがとても嬉しかった。頬をゆるめた俺を、リディアは不安げに見上げてくる。
「私も言葉で伝えてない」
「態度で示してみる?」
 不思議そうな顔をしたリディアに、俺は軽く口づけた。唇が離れたとたん、リディアは少し困ったような笑みを浮かべる。
「それ、ちょっと違う」
 そう言うとリディアは、小さな笑い声を立てて俺の首に手を回した。
「でも、キスも態度のうち?」
 リディアがくれたキスはとても柔らかく優しく、俺の心に届くまで深く染み入った。

☆おしまい☆


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