大切な人
第3話 あなただから 03-1
「ええ? じゃあ、リディアは本当に言葉は要らないって思うの?」
スティアは驚いて目を丸くする。
「愛してるって言ってもらえないと、絶対寂しいと思うんだけど」
私が降臨を受けてしまってから、二位の騎士のフォースが護衛をしてくれている。フォースは、出会った時からずっと私が片思いをしていた人で、恋人になってからまだ一ヶ月と半分くらいしか経っていない。
スティアは王女だけれども、私の父が神官長をしているらか、前から親しくさせていただいている。そして、誰にも内緒の恋人がスティアにできてから、こんな風にお互いの恋人のことを話題にすることが多くなった。内緒と言っても、フォースにはバレてしまっているけれど。
ホントに? と不思議そうな顔でのぞき込んでくるスティアに、私は肩をすくめた。
「寂しくなんかないわ。むしろ、どうしたらいいのか分からなくなっちゃう」
「やぁね、別に何もしなくていいのよ。あ、でも、私も愛してる、くらい言ってあげればいいのに。すっごい喜びそう」
スティアは、言葉で伝えなければいけないとフォースを説得したらしく、フォースは初めてその言葉を口にしてくれた。でも。
「私、頭に血が上ってボーっとしちゃって」
思わずその時のことを思い出し、顔が赤くなった気がして、両手で頬を隠す。
「それでそれで?」
「思い切り驚いて、うろたえて、フォースに謝らせちゃった」
一瞬の間をおいて、スティアは大笑いをはじめた。
「嘘ぉ?! ありえないぃ」
そんなこと分かってる。自分でもそう思うから、なおさら恥ずかしい。
「でも、もしかしたら凄く二人とも、"らしい"かも」
「それ、あんまり嬉しくない」
眉を寄せた私に、スティアは満面の笑みを向けてきた。
「私が男だったら、恋人はリディアがいいな。一途で可愛くて優しくて、声は綺麗だし胸はおっきいし」
スティアの並べる言葉をあっけにとられて聞いていると、廊下からグレイさんが笑いながら入ってきた。スティアが口を尖らせる。
「何が可笑しいのよ」
「そうじゃなくてね、やめとけって。フォースと張り合うと怖いよ。下手したら、その言葉だけでヤキモチ妬かれるかも」
グレイさんは、神官長をしている私の父が信頼している神官で、サーディ様の学友でもあるので、フォースとも仲がいい。長い銀髪と赤く光る銀の瞳を持ち、真っ白な肌をしているので、グレイさんにはとても豪華な雰囲気がある。
スティアは隣にきたグレイさんを肘でつついた。
「ヤキモチが怖くて、リディアに手を出せないでいるとか?」