大切な人 03-2


「いやいや、俺の理想はシャイア様だから」
 シャイア様というのは、今私に降臨している女神様で、メナウルの土地を所有する神様だと言われている。スティアは眉を寄せてグレイさんを見上げた。
「シャイア様って、リディアの中にいるのよね? グレイさんって、真面目なのか、ふざけてるのか分からない」
「心外だな。俺はいつでも真面目だよ。理想はシャイア様。分かるね?」
 グレイさんが立てた人差し指を、スティアは難しい顔で見ている。グレイさんがシャイア様と私を別に思うのは、実は当たり前のことで、それは随分前から兄と妹みたいに仲良くさせてもらっているからだと思う。
「それより、面白そうな話をしてたじゃない。フォースに愛してるって言わせたって? 似合わねぇ」
「え? 聞いてた?!」
「すぐそこで片付けしてたんだ。スティアの声は大きいから筒抜けだよ」
 スティアは驚いて目を丸くしている。私は何も言えず、言葉の代わりにただ長いため息をついた。スティアは何か思い当たったような顔で、声を潜めて笑っているグレイさんの袖を引っ張る。
「ねぇ、どうして似合わないって思うのかしら。似合う人とどう違うの?」
 グレイさんは少しだけ首をひねった。
「んー、そうだな、愛してるって言葉、どんなときに言う?」
「ええと、気持ちを盛り上げたい時とか、う〜んと気持ちが盛り上がっている時とか?」
 スティアは興味津々にグレイさんの顔をのぞき込む。
「なんだか問題発言な気もするけど、ま、いいか」
 グレイさんの言葉に、スティアはハッとしたように口を押さえた。グレイさんはノドの奥で笑い声を立ててから、わざとらしく咳払いをする。
「その思い切り気持ちが盛り上がっている時に、それを伝える行動って二種類あるだろ?」
 スティアと私は、思わず顔を見合わせた。それからスティアは口を開く。
「まず、愛してるって言葉にするのがそうよね?」
「そう。それから? もう一つは?」
 グレイさんは私の方に話を振った。愛してるって気持ちでいっぱいになったら。
「キス?」
 グレイさんはフフッと笑うと、人差し指を立ててみせる。
「ご明察。フォースは間違いなく激情型だろ? リディアを見たら、まず抱きしめないと気が済まないみたいな。よって、似合わない、となるわけ」
 そうか! とスティアは思い切り何度もうなずきながら、感心しまくっている。グレイさんが楽しげに微笑んでいて、なんだかやっぱり答えない方がよかったかもしれないと思う。

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