大切な人 03-3
「ついでに、言葉なんて要らないって言うリディアも激情型かな?」
グレイさんの言葉に、私は思わず唖然とした。グレイさんが顔をのぞき込んでくる。
「あれ? 違うのかな?」
「だって私は、フォースがいいから……」
言ってしまってからハッとした。一瞬で身体中の血が頭に集まってきたような気がする。
「んもう! リディアったら!」
いきなりスティアが抱きついてきた。グレイさんは声を殺して、というよりは、声が出なくなるくらい思いっきり笑っている。
「フォースのすることなら何でも許しちゃうの? イヤン、私もそんな風に思われてみたいわぁ」
スティアはそんなことを言いながら、私を抱きしめたまま飛び跳ねたり揺すったりする。
「スティア、苦しいってば」
背中の方で、扉の開く音がした。スティアは腕を解かずに私を扉から遠ざける。開いた扉が目に入り、フォースが入ってきた。全身に鼓動が広がっていくのを感じる。
「なにやってんだ?」
フォースはこちらを見るなり開口一番そう言った。グレイさんは相変わらず大笑いしているし、スティアはニコニコしながら、まだ私を抱いたままでいる。フォースは訝しげな顔のまま側まできて、グレイさんとスティアと私の顔を順番に見た。
「グレイ、またリディアに変なこと吹き込んでたんじゃないだろうな」
「そりゃ誤解だ。リディアがあんまり凄いことを言うから」
グレイさんは、笑いを堪えながらそう言うと、また背中を向けて笑い出す。フォースの眉を寄せた視線がこっちに向いた。
「凄いこと?」
「あ、あのね、フォース、私……」
どうにか説明しようとしたが、でも、言葉が出てこない。フォースは疑わしげにスティアの顔をのぞき込む。
「スティア、何の話を?」
「もしも私が男に生まれてたら」
「いつでも受けて立つけど」
フォースがスティアを遮って返した言葉に、スティアは呆れたように息を吐き出した。
「駄目。やっぱり全然冗談通じない。怖すぎ。返す」
スティアは私をフォースの胸に押しつけると、私を支えるように腕を回したフォースの顔を見上げる。
「ホントにもう。自分がどれだけ幸せな奴だか分かってるのかしら」
「分かってるよ」
フォースは、スティアの言葉に即答して私に優しい瞳を向けると、笑顔が張り付いたような顔をしているスティアにもう一度視線を戻す。
「で、何?」
「分かってればそれでいいのよっ」
スティアは歯を剥いて噛みつくように言い放つと、身体の中の空気を全部はき出すような、大きなため息をついた。
☆おしまい☆