大切な人
第4話 寝言 04-1


 恋人のリディアが女神の降臨を受けて巫女になってしまってから、二位の騎士である俺がリディアの護衛を務めている。実は、あまり時間のかからない神殿警備への指示などが結構大切な仕事だ。その神殿を警備してくれる騎士や兵士たちのおかげで、神殿の中では自由に過ごせる。
 本当はもう一人というか一匹というか、リディアには、スプリガンという種類の妖精がくっついている。普段は子供の姿をしているが、本当の姿は緑色のずんぐりした体型に長い腕、目がギョロッとしていて口は裂けたように大きく、怪物のような容貌だ。
 そいつは名前をティオといい、リディアを守ると言い張って側から離れない。だが最近、俺がいる間は部屋のソファーに寝転がっているので邪魔にならず、逆に俺が付いていられない時にはリディアの側にいるので安心していられる。実はティオは人の心の中を覗けるらしく、結構くせ者だったりするのだが。
 俺が外の様子を見て戻ると、いつものようにティオがリディアの隣からソファーへ走っていって寝転がった。部屋には甘い香りが漂っている。リディアがテーブルの隅から手を振ってきた。
「フォース、お帰りなさい。これ、アリシアさんが」
 リディアの微笑みに笑顔を返してテーブルを見ると、クッキーが入った皿が置いてあった。ふとソファーを見ると、持てるだけ持って行ったのだろう、ティオがサクサクとクッキーを食べている。俺は小振りなクッキーを一つつまんで口に入れた。
「げ。甘っ」
 そう言ったとたん、ゴンッと後頭部に衝撃が走った。
「分かってて手を出してるんだから、文句言わないのっ」
 振り返ると、アリシアが片手にお茶、もう片方の手にトレイを構えて立っていた。衝撃はそのトレイが原因らしい。わざわざお茶をどけてまで殴るなんて。
「人が作ったモノに失礼な。だいたい、クッキーが甘くなくてどこが美味しいのよ」
「甘くてもいいけど、せめて素材の味が分かる甘さに」
「じゃあ小麦粉でも舐めていればいいでしょ」
 この可愛げのない奴はアリシアといって、ヴァレスに住んでいた時に使用人をしてくれていたマルフィさんの娘だ。四つ年上で、そのころ一緒くたにコロコロと育てられたので、今は実の姉のような付き合いをしている。
「太るぞ」
 アリシアにそう言ってリディアに目をやると、リディアは苦笑を浮かべただけで、アクビをかみ殺した。俺とアリシアの口喧嘩にはすっかり慣れてしまったらしい。アリシアはフフッと鼻で笑う。

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