大切な人 04-2
「あんた、ドリアード振るくらいだから妖精みたいに華奢なのは好きじゃないんでしょ? こういうので補給すれば、もぉっと大きくなるわよ」
「はぁ? 別に揉めるくらいの大きさがあれば、それなりでいいんだけど」
「なんてこと言うのよっ!」
アリシアが振り回したトレイを、腕で受ける。バンッという音にリディアが目を向けた。そう何度も殴られてたまるか。
「話を振ったのはテメェだろうが」
「言い方ってモノがあるでしょう? このスケベっ。リディアちゃん、ホントにこんなののどこがいいのよっ」
いきなり名指しされ、リディアはアクビしかけていた口を無理矢理閉じた。
「え? どこって、嫌いな所なんてどこにも……」
リディアの気にしていないような素振りに、ちょっとホッとする。俺がそれなりにスケベだってことも、少しは分かってくれていると思うんだけど。アリシアがリディアの顔をのぞき込んだ。
「それにしても随分眠そうね。どうしたの?」
「昨日の夜、考え事をしていたら眠れなくなっちゃって。ずっと起きてたんです」
そう言うと、リディアは両手で口を隠して、またアクビをしている。
「そうなの? 可哀想に。こんなのが側にいると色々大変よね」
アリシアは、リディアが首を振っているのを無視し、ニヤッと笑って横目でこっちを見る。さっきからリディアは一つも同意していない。俺はアリシアを一瞥してから、ひたすら眠たそうなリディアに向き直った。
「昼寝する?」
「いいの? 護衛付きで昼寝って、なんだか凄くとんでもないことみたいで」
「そんなガチガチに考えていたら無理がくるよ。普通に生活していると思っていいんだ」
リディアは、眠そうに細めていた目を、微笑みでさらに細くする。
「ありがとう」
「じゃ、おやすみ」
声をかけたアリシアに、リディアはヒョコッとお辞儀をした。
二階の部屋に上がり、リディアがベッドに入ったのを見て、俺はその部屋の窓をあけて左側を見た。そこには雨樋があるのだが、前に登れると言ってバックスとグレイに笑われたのだ。笑われはしたが、それでもやっぱり気になるモノは気になる。やはりこの距離だと、雨樋から窓に手が届くだろう。何か音を立てたのか、下で見張りをしていたブラッドという兵が見上げてきた。
「あれ? あなたがそこにいたんじゃ、ここを見張る意味が無いじゃないですか」
「はぁ? てめっ、誰を見張ってんだ」
バカ笑いをはじめたブラッドを睨みつけて窓を閉じる。俺は、ベッドに横になっているリディアとおやすみのキスを交わして部屋を出た。