大切な人 04-3


   ***

「フォース……」
 背にしていたドアの向こう側の声にハッとして振り返る。呼ばれたというよりは、ボソッと名前をつぶやいてみたような声だろうか。俺は様子をうかがおうとドアを薄く開けた。
「もう駄目、こんなのひどすぎるわ」
 一体何のことだ? 俺はそっとベッドに近づいた。リディアは眉を寄せて眠っている。
「絶対間違えてる。もう、こんな……、たくさん……」
 なんだか寝言ではすませてしまえないような言葉ばかりな気がする。しかも、俺を呼んで言ったのなら、俺を非難した言葉だろうか。でも寝言なんだし、気にしても仕方がない。
 だけどリディアは、考え事をしていたら眠れなくなったと言っていたのだ。もしかしたら、気にしていることそのままを夢に見ているのかもしれない。
「んん……」
 リディアは、眉間にしわが寄るまで眉を寄せる。思わずその顔をのぞき込むと、リディアの瞳が開いた。まばたきをゆっくり二度繰り返してから視線が合い、リディアはその瞳が隠れるくらいに目を細めて微笑む。微笑みを返したつもりで、幾分顔が引きつった気がした。
「フォース? どうしたの?」
 それに気付いたのだろう、リディアは身体を起こして、俺の正面に立つ。
「別に、何でもないよ」
 俺は苦笑してリディアを抱き寄せ、唇をあわせた。
 リディアのこととなると、何でもまっすぐに受け止めようという体質ができてしまっているのだろうか。普段はそうでもないと思うが、思いが顔にまで出る。こうして抱きしめていると顔が見えないから、リディアを不安にさせなくてすむだろうか。
 寝言を聞いたくらいのことで持った不安を、まさか口にできるかと思う。しかも、いきなり目の前にいたのに思い切り微笑んでくれて、こんな風に心配までしてくれる。分かっている、こんなのは杞憂だ。

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