大切な人 04-4
「私、なにか夢見てたの」
「知ってるよ。名前を呼ばれて入ってきたんだけど、寝言だった」
腕の中からリディアが見上げてくる。
「そうなの? ねえ、他に何か言ってた?」
「え。間違えてるとか、たくさんとか。よく聞き取れなくて」
本当はそんなの嘘だ。一字一句覚えている。でもそれを伝えたら、リディアは何を思い出すのだろう。それとも、俺に聞かれちゃマズイ寝言を言ったのかを確かめたかったから、こんな質問をしたのだろうか。
「う〜ん、何だったかしら。普段からずっとしたかったことをしてたような気がするの」
しっかり思い出して不安を吹き飛ばして欲しいような、夢ならキレイに忘れて欲しいような。いや、夢だけキレイに忘れられてもマズイのか? でも、いまさら寝言を全部伝えるわけにもいかない。
「じゃあその、したかったことがなんだか思い出せば」
「あ、それは」
リディアは笑顔を浮かべかけて、また眉を寄せる。
「でも、そんなに楽しい夢じゃなかったと思うの」
一度気にし出すと、色々なことがどんどん気になってくる。
「その、したかったことって、なに?」
「え? それは……、後でね」
一瞬リディアの笑顔が凍り付いた気がして、心臓がはねた。やはり俺を非難したいと思っていて出来ずにいるんだろうか。リディアは俺の腕の中から抜け出すと、ドアに向かって歩を進めてから振り返る。
「アリシアさん、いるかしら」
「いると思うけど」
支えを無くしたようにその場に突っ立っていた俺の所まで戻り、リディアは手を取って引いた。
「下に行きましょう」
そうだ、ここの見張りをしていたので、外の警備を見に行くのが遅れている。俺はなんとか笑顔を取り繕って、リディアの後に続いた。