大切な人 04-5


   ***

 特に何事もなく見回りを終え、扉の前に戻った時、中からリディアの声が聞こえてきた。
「問題の無いように、どうにかして一人になれないかしら」
「そんなの無理。考えてもごらんなさいよ、相手はフォースなんだから」
 一人になりたい? その言葉に、中に入ろうと扉の取っ手にかけた手が凍り付く。相手の声はアリシアだ。
「黙っていることの方が問題なんじゃない? 早く言っちゃった方がいいわよ」
 そう、別れ話にしろ何にしろハッキリ言ってくれた方がいい。リディアの返事はなかなか聞こえてこなかった。ノドの辺りで暴れている心臓を落ち着かせるためにゆっくり深い息をついて、ドアを開ける。リディアとアリシアの視線がこっちに向いた。
「やっぱり相手があんたじゃ大変だわよね」
 アリシアは俺に向かってそう言うと、リディアに手を振って廊下の奥へと消えていった。いつの間にかティオまでこっちを見ている。俺がどんな不安を抱えているのかまで全部見えているのだろうと思うと、蹴り飛ばしたくなってくる。
「お帰りなさい」
 リディアは、いつもならすぐにかけてくる言葉を思い出したように口にして、俺の前に立った。俺を見つめてくるリディアを抱きしめてキスを落とす。唇が離れると、リディアは表情をうかがうように見上げてきた。
「さっきからホントに元気がないみたい。どうしたの?」
 どうしたもこうしたもリディアの言動が。いや、そのわけを聞けない俺が原因か。リディアは俺の腕の中でぴょこんと頭を下げる。
「ゴメンね。怒られると思って言えなかったんだけど」
 その言葉にドキッとする。リディアは力の抜けた微苦笑を浮かべた。
「面倒臭いこと、言ってもいい?」
 申し訳なさそうなその表情に、俺はなんとかうなずいて見せる。リディアは肩をすくめて微笑んだ。
「あのね、ホントはフォースに秘密でクッキーを焼いてプレゼントしたかったんだけど」
「はぁ?」
 想像もしていなかった内容に、思考が付いていかない。呆気にとられている俺を尻目に、リディアは言葉をつなぐ。

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