大切な人
第6話 事情 06-1
愛情の感じ方って、いろいろあるんだね。どんなって、ズバッグサッってのと、ジワッホワッってのだよ。ねぇ、どっちが好き?
俺はまだ百七十九歳だからたくさんは知らないけどさ、心の中を見ることができるから、この二通りだけは知ってるんだ。
俺はティオっていって、スプリガンっていう種類の妖精なんだ。それは前に守っていたフレアっていうドリアードが教えてくれたんだけど、死んじゃってもう居ないから、新しくリディアを守ることにして、今はいつもリディアの側に居る。スプリガンは、宝物とか妖精を守るガーディアンとして生きるのが一般的だからね。
リディアはとても優しいんだ。俺が何か聞くと、フレアは俺にそのうち分かると言うだけだったけれど、リディアは言葉で一生懸命教えてくれる。それにリディアは、人間だけど凄く綺麗なんだ。琥珀色のサラサラした髪とか、柔和なブラウンの目とか。うん、シャイア様が気に入るのも仕方がないよ。
え? 俺を見たことがない? 知らないって? そりゃ、普段はこうして目立たないようにソファーで寝ているからさ。特別なことがない限り、リディアはフォースに任せておいても大丈夫だしね。
今だってほら、一緒にお茶を飲みながら話しをしているだろ。でも、別々なことをしていても、たいていはお互いの視線の中に居るんだ。心配は要らない。フォースが手に持ってるオレンジ、美味そうだな。
俺が初めてガーディアンになったのは、美味しそうな香りにつられて入り込んだ城の中庭だった。そこにある大きな木のところでフレアに会ったんだ。その木と一緒に生きている妖精で、その頃は一人で暮らしてた。そう、男を誘惑して拉致すると人間に言われている、ドリアードっていう妖精さ。
俺が一緒に居るようになって五十年くらい経って、フレアは一人の人間に恋をしたんだ。そいつは中位の騎士で、名前をミューアっていった。
フレアは、ドリアードとしてではなく、人間みたいにミューアを愛してた。ドリアードのキスで心の中を全部すくい取って飲み込んでしまえば、ミューアがフレアのモノになるのにそうしなかったんだ。ミューアもフレアがドリアードだって知っていたけど、全然怖がったりしないで、人間の恋人を愛するのと同じようにフレアを愛してた。