大切な人 07-6


 リディアの問いに、心臓がゴトッと音を立てた。誰にも渡したくないという独占欲が頭をもたげてくる。そうか。俺の不安はそこにあるんだ。
「いや、違う。誰かに取られると思っているわけじゃないんだ」
「だったら私、どうしたら……」
 不安なのは、むしろリディアの方かもしれない。余計なことで心配させてしまっている。だったらいっそのこと、正直に話してしまった方がいいのだろうか。
「リディアを信じていないわけじゃない、独占したいんだ。誰にも見せたくないし、声も聞かせたくない。どこかに閉じこめて、リディアの何もかも全部を独り占めしたいんだ」
 リディアは驚いたように目を見開いた。そりゃそうだろう。いきなりこんなことを言われたら、怖いだろうと思う。
「でも、そんなのは無理だって分かってる。それに、笑ったり驚いたり怒ったり喜んだり、俺はそういうリディアが好きなんだ。だから何も心配はいらない。今のままが一番なんだ。……って、こんなこと言っちまって俺、嫌われたんじゃないかって方が不安だよ」
 俺の苦笑を見て、リディアはうつむき加減で首を横に振った。それからそっと頬を染めた顔を上げ、視線を合わせてくる。
「いつか必ず、私のすべてをフォースだけのモノにして」
 リディアの腕が俺の首にからみつき、唇が重なった。俺はリディアの背中に腕を回して抱きしめる。
「ああ。必ず」
 ソリストという仕事からも、降臨しているシャイア神からも、必ずリディアを取り返してみせる。すぐ側のブラウンの瞳に引き込まれるように、俺はもう一度唇を合わせた。
 唇が離れるといつも、リディアは恥ずかしそうに目を伏せてから、柔らかな笑みを俺に向ける。この微笑みだけを見つめていることができたなら、どんなにか幸せだろうと、それを望まずにはいられない。
「もういい?」
 その声に、リディアが廊下の奥に目をやり、あ、と両手で口を隠す。振り向くと、そこにはミルク瓶と皿を持ったアリシアが立っていた。見てた? んだろうな、やっぱり。
「リディアちゃんってば、意外と大胆」
 アリシアの言葉で真っ赤に上気した顔を、リディアは両手で覆って隠した。
「茶化すなよ」
 俺はリディアを包むように抱いて、アリシアから遠ざけた。アリシアは、にやけた顔を俺に向ける。
「あんた独占欲強すぎ。リディアちゃん、箱詰めされないように気をつけてね」
 箱詰めって一体。
「……するかよ」
「ほら、食事食事」
 ため息をついた俺の腕の中から、アリシアはリディアの手を引いて連れ出す。俺は振り返って微笑んだリディアに笑みを返し、二人の後に続いた。

☆おしまい☆


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