大切な人 07-5


 グレイは、言葉に詰まった俺からネコを抱き取り、顔をのぞき込んできた。
「毎度おなじみ出張懺悔室です」
「……やめろ、それ」
 どういうわけだか、俺はグレイに嘘がつけない。神官だという大前提があるからか、それとも性格がそうなのか相性なのか。
「嘘はいけないなぁ。ん?」
 グレイは完璧な営業スマイルで、俺に視線を定めている。おかげで、いつも気付きたくない現実まで見なきゃならない羽目になるのだ。
「そ、そりゃあ、いきなりキスだなんて許さねぇって、少しは思ったけど……」
「正直でよろしい」
 グレイはノドの奥でククッと笑い声をたてると、頬を染めているリディアの肩を叩いた。
「よかったね。さて、一緒に何か食べようねぇ?」
 グレイはネコを撫でながら、サッサと食事の用意された部屋へと入っていった。リディアは、控え目な笑みを浮かべて俺を見上げる。
「……ゴメン」
 思わず謝った俺に、リディアは首を横に振り、微笑みで目を細くした。
「ううん、嬉しかったもの」
 リディアのその微笑みにホッとする。でもまさかネコにまで嫉妬するなんて、自分でも思っていなかった。
「度を超えてると思う部分は、どうにかしようと思っているんだけど」
 俺の苦笑に、リディアは肩をすくめる。
「相手が人だったら、簡単に好きになったり、キスなんてしないから安心して」
「え。会って二度目でキスしてもらった人間が、ここにいるんだけど」
 リディアがキスをくれたのは、出会った次の日、二度目に会った時だった。リディアはそれを思い出したのか、昔を懐かしむように、柔らかな笑みを浮かべる。
「あの頃はまだ子供だったから、フォースにも家族みたいにキスができたの。でも次に会った時は……」
 口ごもってしまったそのあとに、リディアはなんと続けたかったのだろう。俺が眉を寄せると、リディアはハッとしたように口を押さえ、顔を見上げてくる。
「もしかしてフォース、私のこと惚れっぽいって思ってるでしょう」
 いきなり何を言い出すのかと、俺は思わずリディアの表情をのぞき込んだ。リディアは俺が肯定したと取ったのか、頬を膨らませる。
「こんな風に好きになったのってフォースだけよ。だから妬かなきゃならないコトなんて、ひとつも」
「うん、ないよね。分かってるんだ、こんな嫉妬に意味はないって」
 俺は安心させようと、できる限りの笑みをリディアに向けた。リディアは困ったように口を結び、それから改めて俺を見上げる。
「私が他の誰かのモノになるかもって思っているの?」

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