大切な人 07-4


「……、そうだな、危険そうな奴がいたら」
 少し考え込んで答えた俺を見て、グレイはノドの奥で笑い声をたてた。
「リディアが心変わりしそうないい男とか?」
 それも危険には変わりない。って、どうして話しがそっちへ行く? 俺の顔色を窺うグレイの様子が可笑しくて、思わず苦笑する。
「違う。刃物持って押し入りそうな奴って意味だ」
「なんだ」
 なんだってなんだ。ずいぶんとそっちを期待していたように見える。グレイは肩をすくめた。
「いや、フォースって物凄いやきもち妬きだと思うんだけど。あんまり妬くところを見たことが無いんだよな」
「そいつらとのことを想像してまで妬くかよ」
「あ、そうか。リディアはフォースが不安になるようなことを、したことが無いんだ」
 人の返事を無視してそれか。でも、確かにそうかもしれないと、心の中で肯定する。さっきの奴が言っていたように、リディアは他の誰とどんなに楽しげに話しても、最後にはそいつに背を向け俺の側に来て、もっと上等な笑顔を俺に向けてくれる。俺が何も言わなくても、その微笑みで安心させてくれるのだ。
 でも、もっと奥の方で嫉妬心が首をもたげている。これは一体、何に対しての不安なのだろう。
 廊下の突きあたりにある居間兼食堂から、アリシアとリディアがこちらに向かってきた。グレイは二人に、ヤァ、と手を振る。
「おなかが空い……。ネコ? どうしたの?」
 側まで来ると、逆光になっていたリディアの腕に、黒いネコが抱かれているのが目に入ってきた。リディアの隣にいたアリシアが、部屋で待ってて、とリディアに告げる。
「あんまり可愛いから連れてきちゃった。ミルク持ってくるわね」
 そう言い残すと、アリシアは俺の横を通って厨房へと向かっていった。連れてきちゃったって、いったいどこからなのだろう。リディアがいつものように笑顔を向けてくる。
「フォース、見て。この子、とても人懐っこいの」
 リディアはそのネコに視線を移した。ネコはゴロゴロとノドを鳴らし、首を伸ばしてリディアに顔を近づける。
「まっ、待て待て、駄目だ」
 俺は思わず、ネコにキスをしようとしたリディアからそのネコを取り上げた。
「え? どうして?」
 リディアは、キョトンとして俺を見上げている。
「どこのネコだか分からないんだろ? もし変な病気でも持ってたら」
 ブッとグレイがいきなり吹き出した。訝しげな視線を投げた俺に、グレイは人差し指を立ててみせる。
「フォース、それ嫉妬」
「は? なっ?! そ、そんなんじゃ」
「違う? ホントに?」

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