大切な人 07-3


「そう、シャイア様は決して不公平ではありません。彼がそんなに簡単に彼女に会えたのなら、あなたにもそういう出会いを与えてくださることでしょう。謁見を申し出てみてはいかがですか?」
 そんな奴をよこすなと言いたいが、声を出すわけにはいかない。グレイは思い切り笑っているくせに、声だけは不思議なほど真面目だ。まったく、器用な奴……。
「会わせてくださるんですね? やはりシャイア様は公平でなきゃ」
「ええ。今、彼女の全権は二位の騎士であるフォース殿にあります。軍部に申し出てください。用件くらいは聞かれるでしょうけど、会わせていただけますよ」
 ウッと声を詰まらせた男に、グレイはにこやかな声で言う。
「その辺にいる兵士に声をかければ、すぐに話しを通してもらえます。簡単でしょう?」
「……、わ、分かりました。では、そのように」
 立ち上がったのかガタッと椅子の音がし、男は懺悔の部屋を出たようだ。ドアが閉まり、足音が遠ざかっていく。って、え?
「懺悔? ……じゃないよな」
 俺の言葉で堪えきれなくなったのか、グレイはブッと吹き出して大笑いをはじめた。
「せっかく合図したのに、気付くの遅すぎ。でもまぁ、多少なりとも罪悪感があるから、こんなところで言うんだろうけどね」
 グレイは驚いている風もなく、いつもの調子で、隣の部屋とつながる小さな小窓に、人がいない事を示す札を立てかけた。
「来るのか。今の奴」
 つぶやきながらドアを開けて部屋を出る。あとからグレイも、さっきまで書き込んでいた書類を手にしてついてきた。
「来ないよ。今までだって一度も来たことないだろ?」
「は?」
 目を点にして立ち止まった俺を追い越し、グレイが振り返る。
「リディアを紹介してくれってのは、五日に一度くらいはあるんだ。何度も来る奴もいるし。今日のは初物だけどね。やっぱり知らなかったんだ?」
 グレイは面食らっている俺の後ろに回ると、メシメシ、と背中を押した。
「全然知らなかった」
 歩き出した俺の横から、グレイが顔をのぞき込んでくる。
「外見もアレだし、ソリストとして注目もされてる、しかも本職になるかならないかっていう微妙な歳だしな。その上、身も心も清らかだという女神様の保証付きときたもんだ、人気も出るさ。歯止めがあってよかったよ」
「歯止め?」
「フォースだ」
 指を指されて、思わず吹き出した。呆気にとられている俺に、グレイはまた笑みを向ける。
「真剣に見ていれば見ているほど、リディアがフォースを好きだってのが分かるからな。フラれるためにコンタクトを取ろうなんて奴はいないさ。ま、でも、報告書くらいは必要か?」

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