大切な人 08-8


 絶対からかわれると思っていたせいか、身体の力が抜けた。いや、からかわれているのには違いないかもしれないが。
「リディアのを聞いておいて、フォースはリディアに教えてあげないの?」
 そう言われて俺は考えを巡らせた。ずいぶん前に一瞬で終わったこととはいえ、相手はリディアも知っている人間だ。言ってしまうのは、凄くヤバいような気がする。俺が悩んでいると、リディアは慌てて側まで来て、真剣な顔で俺を見上げてきた。
「待って、言わないで。お願い」
 リディアが俺を止めると、スティアは不服そうに口をとがらす。
「どうして? 聞きたくないの?」
「もう妬いてる気がするの」
 その言葉に、思わずキョトンとしてリディアを見下ろした。リディアは困ったように眉を寄せている。
「リディアったら。浮気もバレなければいいってタイプかしらねぇ?」
 イタズラっぽく笑うスティアに、リディアは、そうかも、と顔を隠すように頬を手で覆ってうつむいた。
 時が経てば、誰もがどこか変わっていくのだろう。でも俺がリディアを好きでなくなることだけはないと思う。リディアの口から、お元気で、なんて言葉は一生聞きたくない。
 俺はリディアを片腕で引き寄せた。
「側にいてくれれば、他の娘なんて目に入らないから大丈夫、浮気なんてしないよ」
「なにげに条件付きね」
 ツッコミにハッとしてスティアを見ると、半分笑った顔で俺を指差す。
「でも、フォースは女神の護衛なんだもの、フォースの方から側にいないとクビだわよ」
「クビでいいよ。俺が護衛しているのは女神じゃなくてリディアなんだ」
 それを聞いて、スティアはケラケラと笑いだした。
「やだぁ、フォースったら不良騎士。なんだか凄く不真面目だけど、許してあげる」
 スティアが背を向けて椅子に戻る隙に、俺はリディアにそっとキスをした。

☆おしまい☆


前ページ midst目次 シリーズ目次 TOP