大切な人 08-7


   ***

 神殿裏の居間兼食堂では、スティアと兵士一人が待っていた。俺は、リディアをスティアの向かい側に座らせ、兵士から報告書を受け取って、外へと続く扉の側に立った。
「ねえねえ、今来ていたローネイって人、さっきの話の人でしょう?」
「そうなの。噂話なんて、するモノじゃないわね」
「それでフォースにも話したの? 初恋の人だって」
 名前が出てきて、俺は思わず二人に背中を向けた。報告書を読まなければならない。兵士は背筋を伸ばして立ってはいるが、視線はリディアとスティアに向いている。
 その報告書には、ここ二、三日、神殿のまわりをウロウロしていた男のことが書かれていた。その特徴が背格好から服装まで、ローネイと酷似している。神殿に来るまで何日も悩んだのなら、軽い奴だと思ったのは間違いかもしれない。もし本当にローネイだったなら、もうきっと神殿には来ないだろう。子供の時のこととはいえ、自業自得だ。
 俺は二人を見て気の緩んだ笑顔を浮かべている兵士の肩をポンと叩いた。ハッとしたように、兵士の顔が引き締まる。
「今さっき来たローネイって客が、たぶんコイツだ。一応この報告をくれた兵と、ローネイを見た兵とで、照らし合わせてみてくれ」
「はい。で、またウロウロしてたらどうします?」
「そうだな。もし来るようなことがあったら報告してくれ。俺が直に話をするから」
 兵士は敬礼を残して出て行った。俺は返礼を返し、扉を閉める。
「こうして考えると、フォースってリディアには合っているのよね。裏がないっていうか、単純だし」
 スティアの言葉に、誰が単純だ、と思いながら、知らん振りを決め込もうと、手にした報告書にもう一度目を落とした。
「ねぇ、フォース」
 スティアがすぐ後ろから呼んだ声に、思わず振り向いてしまいゾッとした。スティアが満面の笑みを浮かべてこっちを見ている。
「フォースの初恋っていつ? 誰に?」
「はぁ?」

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