大切な人 08-6


「ご、ごめん」
 思わず謝った俺に、リディアは首を横に振った。
「私にはフォースじゃないんだって思ったら、寂しくて悲しくて……。でもね、それから三日経って見ちゃったの。小さな花束を持って、レイラちゃんに、君が好きだ、君はぼくのお嫁さんになる人なんだよ、って」
「そ、それは……」
 とても声に出しては言えないが、その軽さが羨ましくないこともない。
「ひどいでしょう? でも、嬉しかったの。別に私がローネイのお嫁さんにならなくてもいいんじゃない、フォースのこと好きでいていいんだって分かって」
 リディアは、顔を隠すように、俺よりほんの数歩前に出て歩きだす。
「その嬉しかった分、ローネイが大嫌いになったの。あんな奴に初恋だって思ったなんて、もう一生の不覚」
 出会った頃に、そんなことがあったなんて、初めて聞いた。それからずっと、好きでいてくれたのかと思うと、自然と頬が緩む。リディアは、チラッとこっちを見たかと思うと、頬を膨らませて俺の前に立った。
「もうっ、バカだと思ってるでしょう。顔が笑ってる」
 そのあと何を言うつもりだったのか、口を開きかけたリディアを抱き寄せる。
「子供だったんだし、バカだなんて思ってないよ」
「ほら、やっぱり思ってる……」
 どうしてそうなる、と思いながら、リディアの顔をのぞき込んだ。眉を寄せて見上げてくるリディアに、俺は笑みを向けた。
「ローネイが失態を演じてくれたことに感謝してる。リディアは純粋で可愛いと思ったし、ずっと好きでいてくれたのも嬉しかったんだ」
 まだ不安そうにしているリディアを、俺は腕に力を込めて抱きしめた。リディアが息を飲むのが伝わってくる。
「他の誰を信じなくてもいいけど、俺だけは信じて。リディアに嘘はつかないよ」
「ホントに……?」
 リディアを抱いたまま、俺は、ああ、とうなずいた。
「それと、全部隠さずに教えてくれたのも嬉しかったよ。ありがとう」
 分かってくれたのか、リディアの身体からスッと力が抜けるのを感じる。俺は、上気したせいで一層赤みを増した唇を引き寄せキスをした。唇が離れ、見上げてくる瞳には、柔らかな笑みが含まれている。
「私も、フォースには全部知っていてもらえると嬉しい」
 俺は、リディアのすべてを包み込みたくて、もう一度しっかりと抱きしめた。

08-7へ


前ページ midst目次 シリーズ目次 TOP