大切な人
第9話 朝の光 09-1


 恋人のリディアが女神の降臨を受けて巫女になってしまってから、二位の騎士である俺が陛下の命によりリディアの護衛を務めている。護衛に就いてからは、ほとんど一日中リディアの側にいる。と言っても夜は勤務外なので、別々の部屋にいるのだが。
 朝を迎えた部屋に、リディアの子守歌が流れている。ソリストだけあって、優しくて暖かで美しい声だ。このままベッドの中で目を開けることなく、もう一度眠りに落ちることができたら、どんなに……。
「フォース、起きて。朝よ」
「ん……」
 素直に声が出てこない。ってか、子守歌を歌いながら起きてってのは、どうしてだ。なんだか自分の手が、無意識に布団を引き寄せている気がする。クスクスとリディアの可笑しそうな、だが押さえた笑い声が聞こえてきた。
「ねぼすけなお父さんね。ねぇ?」
「だー」
 だー、って。……、え? お父さん?
「ねぇ、起きて。フォース」
 目を開けると、ベッドのすぐ側に立つリディアの腕の中に、小さな赤ん坊がいた。夢の続きでも見ているような光景につられて起きあがり、ベッドの上に座り込む。
 リディアは、寝ぼけているだろう俺の顔を見てクスッと笑うと、やっと起きたわね、と腕の中にいる赤ん坊に柔らかな笑みを向けた。どうしてリディアが赤ん坊を抱いているんだろう?
「見て。可愛いでしょう」
 リディアは、俺が赤ん坊の顔を見やすいように、身体の角度を変える。
「産んだの?」
 ひどくボケた声が出る。リディアのキョトンとした瞳で、俺は自分がなにを言ったのか気付いた。
「は? ち、違っ。誰が産んだ子なんだって聞こうと思って」
 リディアは吹き出すように笑い出すと、赤ん坊を抱き寄せるように抱え直した。
「やぁだ、ビックリするじゃない。まだ頭が寝てるのね? 私が産んだのかって聞かれたのかと思ったわ」
「まさか。作ってもいないのに」
 俺がボソッとつぶやいた声に、リディアは一瞬で顔を赤くした。
「フォースっ?!」
「え? あっ、ご、ゴメンっ。つい」
 赤ん坊を抱いたまま、リディアは俺に背を向ける。
「もうっ。寝ぼけてちゃ駄目よ」
 いや、今のは全然寝ぼけてないんだけど。リディアは、上気した顔で俺に微笑んでみせる。
「いつもより遅いから起こしに来たのよ。目は覚めた?」
「思いっきり」

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