大切な人
第10話 心構え 10-1
恋人のリディアが女神の降臨を受けて巫女になってしまってから、二位の騎士である俺がリディアの護衛を務めている。護衛に就いてからは、ほとんどリディアの側に居る。といっても勤務は日中だけで、夜は別の騎士が護衛についているのだが。
勤務が終わっても大抵は一緒にいるが、皇太子であるサーディやその妹のスティアが神殿に来ている夜は、リディアとは別行動になることが多い。スティアと二人だけで話しをするのも楽しいだろうし、夜は警備の関係上、自室にいてもらった方が安全な体勢をとっているのもある。といっても、今日はケーキを焼くとかで、スティアと二人厨房にこもっているのだが。
サーディと神官のグレイと俺は、学友として付き合いが長かったせいか、いまだにこうして集まっては色々な話しをして楽しんでいる。中でも大きな話題は、サーディの結婚に関することだ。
皇太子のサーディは、もう既に結婚相手を探さなくてはならない時期らしく、なんでもなさそうな行事でも、それにかこつけて相手を探すようにとの負荷が付けられている。だが、結婚しなければならないというサーディの気持ちは、その負荷が強くなればなるほど、削がれているような気がしてならない。
「だいたいなぁ、可愛いからなんだってんだよ。そこからいきなり結婚に結びつけようだなんてありえないだろ」
ため息混じりで行ったサーディの言葉に、グレイは目を細くして笑みを浮かべた。
「そうだよね。可愛いなんて、犬見ても思うのに」
思わず吹き出した俺に、グレイは冷ややかな目を向ける。
「同じ次元だろって話しだ」
「いや、分かるけど」
それにしてもなんで犬だ、と思いながら言葉を濁す。サーディは椅子の背に身体を預け、そっくり返って天井を見上げた。
「まぁ、選べって言われるだけ、マシだと思わなくちゃな。ほら皇太子妃だ、なんて連れてこられるのも嫌がられそうで嫌だし」
「嫌がられそうなのが嫌って。サーディがどう思うかが問題なんだろうが」
顔をしかめた俺に、グレイはノドの奥で笑い声をたてる。
「そうそう。同じ道を通ってきたフォースが言うんだから間違いない」
「同じ道?」
サーディの訝しげな顔がこっちを向く。何のことか分からずに俺が眉を寄せると、グレイは肩をすくめた。
「自分の感情を押さえ付けて、まっすぐ出してなかっただろ」
言われてみれば、昔はそうだったかもしれない。陛下の命で城都の学校に入れられた頃は、無意識に人が話す俺という人間に沿って物事を考え、行動していた。それが自分にとって最良だと思っていたのだ。