大切な人 10-2


 リディアに対してもそうだった。自分に関わらせるのは、望まれることではないと考えていた。リディアが襲われかけて、一緒に逃げた時のことを思い出させてしまうから。ごくたまに会った時のリディアはいつも幸せそうに見え、俺が側にいない方がいいだろうと思ったから。
サーディは、興味深げに俺の顔をのぞき込んでくる。
「どうして改心したんだ?」
「リディアの存在が許容量を超えただけだ」
 改心という言葉に苦笑を返してそう答えた俺に、グレイは俺の言葉をのろけとでも取ったのだろう、冷ややかな笑みを浮かべる。
「やっぱりサーディにも、そういう存在が必要だって言いたいんだ?」
「そうじゃない、サーディは俺と違って度量の広い奴だから」
 慌てて付け足した俺に、サーディはフフッと笑い声をたてた。
「照れ隠しに褒めてくれなくても」
「いや、違うって」
 照れ隠しなんかじゃなく、本気でそう思うのだが。どう言えば信じてくれるだろうと考えるうち、サーディが独り言のように口を開く。
「俺も本気で好きになれる相手に、出会えればいいんだけどな」
 俺のどこかが、出会うだけでは足りないと主張している。出会うことも大事だが、自分の気持ちを解放して自由に、自分らしく自然にいることが、サーディにも大切なのだろうと思う。そうでなければ、自分が恋愛感情を持っていることすら気付けない。本気になんて絶対になれないのだ。
 リディアも俺の心を溶かしてくれた。でも、人と接しようとしない、つっぱったガキだった俺を、友人として認め、許容し、側にいてくれたのはサーディとグレイだ。感謝している。それがなければリディアと付き合うことも、できなかっただろうと思うから。
 ドタドタと音を立てながら、ティオが部屋に駈け込んできた。何かあったのかと立ち上がる。
「ティオ? リディアのところにいたんじゃ」
「スティアに邪魔だって言われた」
 はぁ? と聞き返した俺に、サーディがゴメン、と肩をすくめる。いや、ティオが一緒にいなくても、廊下にはバックスが見張りについているのだから支障はない。はずだけど。
「大丈夫だろうけど、一応見てくるよ」
 勤務時間外でも責任者には変わりないし、気になりだしたら止まらない。そんなコトにならないように、普通勤務時間外は自宅に戻る事になっているのだが、あいにく自宅はサーディが使っていたりするので、結局は昼夜を舎かず神殿の中にいることになる。サーディもグレイも俺の性分を分かっていて、サッサと行けとでも言うように、手だけ振って寄こした。

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