大切な人 11-6


「なに?」
 振り返ったフォースに、リディアちゃんの不安そうな視線が向く。
「ねぇ? 虫がいなかったって、わざわざ全部見てくれたの?」
「え? あ……」
 言い淀んだことで、フォースはやはりリディアちゃんに言うつもりは無かったのだと分かる。
「秘密はよくないわよ」
「ああ。よくない」
 結託したバックスと私に交互に目を向け、フォースが何か言おうと口を開きかけた時、リディアちゃんが後ろから唐突にフォースの右手を取った。
「フォース、これ」
 リディアちゃんが大切そうに引き寄せたフォースの指先に、ほんのわずかなひっかき傷がある。
「あ、いや、そ、それは、……」
 その指先を見つめていたリディアちゃんがフォースを見上げたその笑顔に、フォースは言葉を詰まらせた。
「嬉しいわ。ありがとう」
 その言葉でバレてしまったと察したのだろう、一瞬で顔を赤くし、フォースは恥ずかしそうに苦笑を浮かべる。
 バックスが吹き出すのをこらえつつ向こうを向いた。同時に、私も笑わない我慢をしている振りをして、フォースに背を向ける。
 でも本当は。単純に弟と思っていたフォースをリディアちゃんに取られたような気がして少し寂しい、なんて顔に出ていたら困るからなのだけど。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
 パタッとドアの閉じる音で、フォースに向き直る。
「リディアちゃん、あんな小さな傷によく気付いたわね。私が何も言わなくても、バレたじゃない」
「は? 秘密はよくないとか言ったからだろうが」
「そうだっけ?」
 私が聞き返した言葉に、フォースは赤味の残る顔でブツブツ文句をいいながら、自分の部屋へ歩いていく。
「リディアさん、可愛かったなぁ」
「本当に」
 そうバックスに返事をして、フォースがドアを閉めるために、一瞬だけこちらを向くのを待ち、目があった瞬間に言ってやろうと思っていた言葉を投げかける。
『フォースも』
 図らずもバックスの声と重なった。硬直したように手を止めたフォースの前で、バックスと握手する。
「気が合うな」
「本当に」
 バックスと目を合わせて笑い合ううちに、フォースはため息をついて部屋のドアを閉めた。

☆おしまい☆


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