大切な人 11-5


 心配する必要なんて無かったのだろうか。でも、フォースはどうしてあれほどの勢いで、言うな、と怒ったのだろう。プレゼントを秘密にするなら、そう言えば通じることくらい分かるはず。どこか不自然だ。
 そういえば。花屋の娘に何を頼まれて何を喜ばせていたのかは分からないままだ。やっぱりそこが引っかかる。
「どこに置く?」
「ベッドの棚がいいわ。……、あ。でも、虫がいたりしないかしら」
「いなかったよ」
 その言葉に、一本ずつ全部見たのかと突っ込みたくなる。振り返るとバックスはうなずき、フォースが通りやすいようにとリディアちゃんの部屋のドアを大きく開けた。
 フォースが運び出してきたバラは、もう少し開いたら満開だろうというとても良い状態で、かげりのない深紅がとても美しい。目の前を通り過ぎる花からフォースに視線を移すと、フォースはまたムッとした顔をして通り過ぎた。
 私は二人が部屋に入ったのを見届けてから、人差し指を口に当ててバックスに黙っているように頼み、フォースの部屋に入った。
 寝るためだけの部屋なので割と綺麗に片付いている。でもそのせいで、床になにかプツンとひとつ、小さなモノが落ちているのが目立った。それを指先でつまみ上げ、手のひらに乗せて見入る。
「これ……」
 間違いなくバラのトゲだ。もしかしてと思いゴミ箱をのぞくと、バラのトゲがたくさん入っている。
 ということは。頼まれたのはバラのトゲを取ることで。花屋の娘が喜んだのは、その手間を省けたから、ということなのだろう。なんて人騒がせな。……、いや、騒いだのは私なんだけど。
 私はそのトゲを持って部屋を出た。バックスに駆け寄って、黙ったままトゲを見せる。手の中をのぞき込んだバックスは、キョトンとした顔でそれを見つめた。
「これって」
「トゲよ。バラのトゲ」
 顔を寄せ、小さな声で口にする。
「こんなモノをちまちまと?」
 気の抜けた笑みを浮かべたバックスに、ウンウンと何度もうなずいて見せた。バックスもホッとしたのか、大きなため息をつく。
 絶対無いとは言いきれない、とかなんとか言っておいて、この人も安心したのだ。自分でも心配しながら、それでも私を勇気づけようとしてくれたのかと思うと、その優しさが嬉しい。自然と笑みがこぼれてくる。
「じゃあ、おやすみ」
 そう言いつつ部屋から出てきたフォースが、足を止めて振り返る。後ろにいたリディアちゃんが、フォースの鎧に手を掛けていたのが目に入った。

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