大切な人 11-4
コンコン、とリディアちゃんの部屋の内側からノックの音がした。うるさかっただろうかとバックスと顔を見合わせ、肩をすくめあってから戸を開ける。
すぐそこにリディアちゃんが立っていた。ちゃん付けが奇妙だと思うほど、この娘はいつ見ても綺麗だ。琥珀色の髪は薄暗い中、少ない光をすべて吸収しているかのように艶やかで、その光を受けた肌は、どこまでも白く透き通って見える。こんなに側で見たらなおさらだ。
「なにかあったんですか?」
その不安げな瞳がこちらを向いた。胸の動悸が痛いほど大きくなる。
「な、無いわよ? なぁんにも無いわよ?」
焦って大げさな返事を返してから、しまったと後悔した、だがすでに遅い。リディアちゃんは苦笑を浮かべて首をかしげる。
「……、あったんですね」
その仕草も、女の目でさえとても可愛いと思う。あきらかにリディアちゃんにベタ惚れなフォースが、嫌われるかも知れない危険を冒してまで浮気なんてするだろうか。
「どう考えても、こんなの二度と手に入らないわよね……」
リディアちゃんを見つめたまま言ったその言葉が、そのままリディアちゃんのことだと察したのだろう、バックスがブッと吹き出した。
「ちょっとっ」
「いや、こんなのってアリシアさん」
大笑いしているバックスを見ていると、なんだかすべてがどうでもよくなってくる。リディアちゃんの視線がバックスと私の間を、不思議そうに交互に往き来した。
斜め向かい側の部屋のドアが開き、フォースが出てきた。三人の視線が一斉にフォースに向く。
「え? ……、何?」
フォースに不審そうに問われて我に返る。
「あ。まだ何も言ってないわよ?」
思わずそう返して、フォースが一瞬凍り付いた顔をするのを楽しんでしまう。プクッとバックスが笑いをこらえるのが聞こえた。フォースは胡散臭そうな目でこっちを見ると、すぐにリディアちゃんに視線を向ける。
「まだ寝てなかったんだ、よかった。ちょっといいかな」
フォースはバックスと私を無視すると、リディアちゃんの手を引いて部屋へ戻っていく。
「ええ? 綺麗! 素敵!」
開け放たれたドアの陰から、リディアの声が聞こえてきた。
「これ、どうしたの?」
「プレゼント。リディアに」
フォースの言葉に、私は思わずバックスの顔を見た。
「こんなにたくさん? すごい! ありがとう!」
「いや、花屋のおまけ込みでこれだから」
バックスは満面の笑みを浮かべながらフォースの部屋の方へ目をやっている。