大切な人 parallel
第1話 嘘 1-1
バレンタインとかいうお祭りはひどく混みそうだからと、時期をずらして来たつもりだったが、店は結構な数のカップルで賑わっていた。たくさんのカップルがいることに少しホッとしながら、たぶんここが一番目立たないだろうと、リディアと二人隅の席に着く。
「両手を使っていいのよね?」
腰を落ち着けるなり、開口一番リディアは言った。
「いいよ」
俺も間を空けずに返事をする。
「ホントに負けた方がなんでも一つ、いうことを聞くのよ?」
「OK」
「あのバケツに入ったパフェを半分ずつ食べるって言っても、拒否権なしよ?」
え? と思いながらリディアの視線を追った。一瞬普通のパフェに見えたが、ひどく違和感を感じる。校則違反、という大きめな声につられて目をやると、学生なのか、多少体格はいい気がするけどコレが普通サイズだろうという感覚が戻ってきた。そう、そのパフェとソイツの図体が異様にでかいのだ。半分とはいえ甘い物が好きではない俺にあの量は地獄だ。いや、最初から負ける気なんて無いんだけど。
「了解」
視線を戻そうとして大きな男の彼女がひどく小柄な事に気付き、大丈夫なのだろうかと余計な心配をしながら返事をした俺に、リディアはクスッと笑みをこぼした。
「じゃあ、左手」
「えっ? 左?」
そう聞きながら振り返ると、リディアはテーブルの上で遊んでいた俺の左手をサッサと取る。
「だって右手じゃ力が違いすぎるでしょう? ね?」
満面の笑みを向けてくるリディアに何も言えないうちに、リディアは親指を立て、他の4本の指で俺の指を握ってくる。
「はじめ」
リディアは、そう言うが早いか俺の親指を右手で押さえ付けて自分の親指を重ね、その親指を右手で覆って力を込めた。
「え? って、早っ」
「先制攻撃」