大切な人 parallel 1-2
「ご注文は?」
「コーヒーひとつ。他はまた後から頼むよ」
見る限りではリディアが俺の手を握っている様にしか思えないだろうが、顔色一つ変えず、かしこまりましたと丁寧に頭を下げて去っていくウエイターに、ちょっと敬意を感じたりする。まぁ、リディアが数を数えているから、違うかもしれないとは思うだろうけど。
「フォース、ずるい。一人だけコーヒー」
リディアは数を数えつつ、うつむいて手を見ながらそう口にした。
「だって、両手使うんだろ? 長丁場なんだし、冷めたり溶けたりしたモノ食べたくないだろ」
「そうだけど……。51、52、53……」
実は、やっていることは指相撲だが、リディアが知らなかったらしいのをいいことに、指を押さえたまま100数えたら勝ちだと言ってあったりする。当然リディアの手に触れていたかったからそう嘘をついたのだけれど。リディアが勝ったら、俺に何を望むんだろう。ホントにあのでかいパフェを食べろと言うんだろうか。それとも。
「85、86、87……」
少し聞いてみたい気もするが、このままだと負けてしまうので親指を動かそうとすると、リディアは慌てて両手に力を込めた。このくらいなら、逃げられない事もない。
「フォース、お願い、私から逃げないで。91、92……」
は? 今なんて言った? そんな言い方をしたら違う意味に聞こえるじゃないか。
「リディア? なに言って」
「離れたくないの。だから逃げちゃイヤ」
とりあえず指を外そうと力を入れた俺の顔を、リディアは悲しげな瞳で上目遣いに見上げてくる。俺は思わず言葉に詰まり、リディアに固まった視線を返した。
「……99、100。私の勝ちね」
リディアはホッとしたように息をつくと、そっと手を離した。
「しまった。ってか、ずるいだろ。まるで痴話ゲンカしてるみたいな事を言って」
「却下。心理戦だって立派な戦法でしょう? それにね」
リディアはうつむき加減で微笑むと、なんだか凍り付いたような笑みを向けてくる。
「10倍も数えたんだからいいじゃない」