この地球の美しさといったら! 01


 地球周回軌道上の宇宙船から伸びた長いアームが、地球の大気を採取してゆっくりと畳まれていく。古いアームは、時々異常な動きを見せながらも船に寄り添い、取り込んだ空気を船内に送り込んできた。
 まずここまでは上手くいった。シュウは緊張を逃すため、身体に溜め込んでいた空気をすべて吐き出した。視線が落ちて目に入った服は薄汚れている。だが、どうせ宇宙船にはシュウ一人しかいないので、気にする必要はなかった。船内に残っている男物の服はこれが最後だから、どちらにしろ着替えようがないのだが。
 機器の発する光以外は最低限の照明しか点けられていない宇宙船内、シュウがコンソールに指を滑らせると、様々な場所にある機械が息を吹き返したような音を立て、採取した空気の分析を開始した。次々とモニターに映し出されてくる分析結果は、この宇宙船が地球を離れる以前のそれにほど近く、人類が繁栄していた頃の状態に戻っていることを示している。
 オールクリア。
 まだ地表の分析は終わっていないとはいえ、その大きく真ん中に映し出された文字に胸が高鳴った。シュウは宇宙船で一番大きな窓、といっても直径2m程しかない円内に目を向けた。青い海面と列島が、薄い雲の下に見えている。生まれた時から変わらぬ風景なはずのその地球が、今のシュウには光輝いて見えた。
 風に揺れる木々の葉が陽の光を乱反射させ、緑の香りが肺を洗う。そうやって身体が自然を吸収するのは何より気持ちがいいと、シュウは古い書物に書かれていたのを読んだことがあった。地上に降りる手順を探し出し実行していくことで、自分もそれを感じることができるのだ。シュウは、今まで感じたことのなかった新しい世界に対する冒険心を、胸に抱いていた。

 今からちょうど100年前、小さな戦争が起こった。それは頻繁に勃発する小競り合いと同じ様に収まっていくはずだった。いや、戦争は確かに収まった。だが二国間が睨み合いに戻ったのではなく、生物兵器としてばらまかれたカビによって、世界中が戦争どころではなくなってしまったのだ。

2へ


短編掌編 TOP