この地球の美しさといったら! 02


 敵国を滅ぼすはずの胞子は、季節風に乗って運ばれ、対処法を研究するスピードを凌駕した。それでも一定期間低い熱を加えるだけで死滅すると解明されたが、太陽熱では全滅まで推定80年の歳月が必要なため、結局人類は為す術もなかった。ただ、生き残ったうちでもラッキーだった数パーセントの人間だけが、すでにあった宇宙船に乗って宇宙空間へと逃げ出せたのだ。
 シュウの乗るこの宇宙船で脱出したのは200人あまりだった。だが、空気や食料を節約する為、そのうちの100人が冷凍睡眠につかされた。それでも彼らは笑っていた。眠りにつかない人間と違い、いつか地球に帰ることができるという夢を見ていられるからなのかもしれない。
 実際、慣れない宇宙での厳しい生活に、人口はあっという間に減っていったらしい。無作為で搭乗したので、夫婦が少なかったこともある。だが問題は他にもあった。出生率が地上と比べて極端に低かったのだ。
 宇宙船に搭乗してから生まれた二代目は17人。三代目は3人、四代目は1人だった。そして20年前、宇宙船の着陸準備の際に起きた事故で三代目の1人が亡くなったため、生き残っているのも1人のみ、当時5歳だった四代目のシュウだけになってしまった。いや、冷凍睡眠についている100人がいるため、完全に1人とは言い切れないのだが。
 地上に降りさえすれば、冷凍睡眠は自動的にとかれるように出来ている。事故から20年経ち、これ以上延長すれば冷凍睡眠が自動でとけなくなってしまう。
 宇宙船にあったすべての資料を読み尽くし、シミュレーションを重ね、シュウは25歳になった今日まで地上に降りる為の勉強を重ねてきた。人類の存亡と100人の命がシュウにかかっている。だが置いてあった資料だけを使った完全な独学のため、勉強したことが正解かどうかも定かではない。無事に降りられる自信はまだ無かった。

 シュウは船尾にある冷凍睡眠室へと足を向けた。そこに行けばシュウが蘇らせなくてはならない100人がいる。その顔を眺めれば、地上に降りる勇気が出るのではないかと思った。
 13、4歳の頃に冷凍睡眠室をのぞき見たことがあったが、それ以来、一度も見に行ってはいなかった。怖かったからだ。冷たく小さなカプセルの中で青白い光に包まれている人間は、宇宙に送り出したたくさんの遺体と同じように見えた。

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