叶わなかった初恋 2


 会社の飲み会なのに、端の方で二人で話し込んだ。あれからどこに行って何をして。話したいことはたくさんあった。長くても10分に一度はお酒や料理を手にしてからかいに来る人がいたから、お酒を取りに行く、なんてコトもしなくて済んでいる。
「二人で何やってるの?」
 ニヤニヤした赤い顔にも、裕くんは上機嫌で笑みを返す。
「実は俺、奈々と婚約してるんだ」
「なにっ?! ほんとか!」
「だから、手を出すなよ」
「うわははは! 了解了解」
 最初は止めたけど、酔っているからか全然聞いてくれない。こんなやりとりを社長まで含めて何人としただろう。
 もう止めるのも面倒臭くて黙ってたのだけど、やっぱり肯定していることになっちゃってそう。でも、相手が裕くんなら、これでよかったのかも。
 ほら。またからかいに来る人がいる。あ、このあいだ裕くんの話をして、お付き合いを断った人だ。
「信じらんねー、婚約しただとぉ? 俺も奈々ちゃん狙ってたのに、抜け駆けどころじゃねーな」
 裕くんは上機嫌でケラケラと笑っている。
「裕くんとは幼なじみなんです」
 代わりに答えた私に、その人は不思議そうな顔をした。
「え? ゆうくん? あの裕くん? まぁ、明裕の裕の字がゆうとも読めるか」
「はい?」
 なにを言ったのか聞き返したつもりだったのに、その人にはちっとも聞こえてないみたい。
「しょうがないなー。明裕がそんなに手が早い奴だったとはなー」
 その人は、二人で仲良くねー、などといいつつ戻って行ってしまう。キツネにつままれた顔を裕くんに向けると、至極真面目な顔でこっちを見ていた。ドキドキが大きくなる。
「明裕って……」
「ゴメン」
「ゴメン?」
 その目がしっかり私を見据えてる。やだ、この人少しも酔ってないんじゃ……。ということは。
「ゴメンって? 嘘? 今までの全部嘘?!」
「や、さっきのに振られた経緯を聞いたんだ。幼なじみって誰でも同じような付き合いかと思って。裕くんの代わりに俺と付き合ってよ。駄目?」
 ちょっとっ。何が、駄目、なのよっ。あのね、それもう遅いから。社長にまで婚約してるって言っちゃったじゃない。
「んもう、嘘つき!」
「あ、でも、嘘は裕くんじゃないってことだけだよ? その後の経歴、恋心なんてのは本物、付き合いたいってずっと思ってたんだ」
 いや、この際問題はそれじゃないでしょう。

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